「それまでも野手をやりながらたまに投げるとかはやっていたんですけど、僕らの代に投手がいなくて、結果的に僕がやることになった感じなんで、全然エースっていう感じではなかったですけど」

　そう当人は謙遜するが、桑田は期せずして「エースで主将」という立場に座ることになった。

　エースで主将、打線でも3番を打つ好打者と、ダイヤモンドの要を守る主砲の4番打者。しかもバッテリー同士ということもあり、この頃までは2人は傍目からみてもわかりやすいライバル関係だった。むしろ、試合の実績だけを客観的に見れば、桑田の方がわずかながら前を走っていたと言ってもいいかもしれない。佐藤がホームランを打てば、負けじと桑田もそれに続くなど、その本数も競い合っていた。

高校2年の秋、3年の春はバッテリーを組んでいた桑田（左）と佐藤。最後の夏の大会は佐藤がサードにコンバート／本人提供

　ところが、高校2年目の冬を越えた頃――ふと気づくと、桑田の“小さな同級生”はまるで手の届かない存在になっていたという。

「スイングスピードが全然、違いました」

　この冬、本格化したウエイトトレーニングで、佐藤は日々通い詰めたジム以外に自室にまでトレーニング器具を置き、フィジカルアップはますます顕著になっていた。

「本当にテルは冬を越えるごとに爆発的に成長した感じで、そこに身体の成長も付いてきた。3年生の時は190cm近くまで身長も伸びていましたし、体重も90kg以上あったんじゃないかなぁ。最終学年になった時はもう、完全にひとりだけズバ抜けてしまっていましたね」

　3年目の春だけで、打った本塁打の数は15本を数える。佐藤本人の記憶では高校通算でも20本だというから、そのほとんどをこの春に打ったことになる。

「スイングスピードが全然、違いました。入部した時からボールの弾道の角度はすごかったんです。1年生の時から普通の人では考えられない角度でボールが上がっていた。でも、当時は身体が小さくてパワーがなかったんで、ホームランにならなかったんです。それが、身体ができたことで一気に開花した」

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