あとでフランスギャロップのジョッキーズカメラを見てわかったのだが、ルメールが内にうまく捌いていた。スルーセブンシーズの柔軟さ、誘導のしやすさも特筆すべきものだろう。

　赤い帽子が伸びてきた。残り300メートルで突き抜けそうな雰囲気があった。

力走するクリストフ・ルメール騎手（中央左の赤い帽子）騎乗のスルーセブンシーズ　©JIJI PRESS

「来た！　差せ！」

　私が直線で発したのはこの一声だけ。それでも急に叫んだからか、レース後1時間は喉が潰れてしまった。

　スルーセブンシーズは伸びているが、前の馬も止まらない。大きなストライドでゴールを目指す。行け、夢を掴め！

　だがエースインパクトは強かった。脅威の末脚33.06。ロンシャンでこの上がりタイムは驚異的だ。先頭でゴールすると、おおという感嘆が漏れた。

エースインパクト（フランス）の馬上で喜ぶクリスチャン・デムーロ　©JIJI PRESS

主な勝ち鞍はGIIIなのに、世界を驚かせた

　4着――。

　馬券には絡めなかったが、見事だった。美しい疾走だった。だって、主な勝ち鞍はGIIIの中山牝馬ステークスだけだぜ？ 世界を驚かせるには十分じゃないか。

　誇らしい気持ちでパドックへ戻る。しばらくすると、鞍を外されたスルーセブンシーズが戻ってきた。少し首を振りながら綺麗な歩様で歩いてくる。だいぶ落ち着いたようだ。馬体に汗が滲んで黒光りしている。ほどなくしてパドックから消えていった。

　勝者が讃えられる瞬間だ。エースインパクトがパドックに入ると、歓声が沸き起こった。デムーロがフライング・ディスマウントをかました。デットーリがよくやる、ジャンプして下馬するやつだ。なんだか急に悔しくなってきた。

　表彰式を待たずにロンシャンを後にし、シャトルバスでポルト・マイヨーに向かい、そこからUber（日本でも議論されているライドシェアだ）でパリの北東にあるフィルハーモニー・ド・パリへ向かった。18時から、フランス古楽の俊英ラファエル・ピションが指揮するモーツァルトのレクイエムの演奏会があるのだ。

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