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「始まってすぐ、たぶん軟骨が折れて」具智元が涙に暮れた日…救いとなった一言「任せろ、俺たちがベンチにいる」<2019年負傷退場からの復活劇> 

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藤島大

藤島大Dai Fujishima

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2023/09/30 11:01

「始まってすぐ、たぶん軟骨が折れて」具智元が涙に暮れた日…救いとなった一言「任せろ、俺たちがベンチにいる」<2019年負傷退場からの復活劇><Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

今大会、イングランド戦では負傷退場もサモア戦で復活出場を果たした具智元。じつは2019年W杯でも負傷退場からの復活劇を見せていた

「240日です。ふたりとも部屋では静かなんですけど、でもそこで、いろいろなことを教えてもらって、それがなければ、あのスクラムもなかったかもしれません」

――かくして吠えた。人気者の誕生!

「トライをしても声は出ないんですけど、スクラムを押し切って、きれいに割れると本当にうれしいです」

――後半、アイルランドも必死だった。

「スクラムも前半より重くなっていました。もっと押そうという気持ちを感じました。ペナルティーを取るまで押してくるので絶対にロッキング(脚を伸ばして押されぬように支える)はダメでした」

もう出られない…

――続くサモア戦で右肋軟骨を痛め、スコットランド戦は、無念の途中退場。今度はジウォンの涙にファンが涙しました。

「始まってすぐ(18秒)にボールを持ったときに、たぶん軟骨が折れて。ずっと夢だったのに、もう出られないかと思うと涙が出てきました」

――勝ち進んでも出番はないと。

「そうです。スコットランドとの試合が終わってからは(控えの)木津(悠輔)にラインアウトのサインを教えたりしました」

「南アフリカのディフェンスは壁でした」

――ところが。

「たまたま月曜のミーティングに向かう前、ジェイミー(・ジョセフHC)とふたりになって、日本語で『自信あるか?』と聞かれました。痛くても出たかったので『自信あります』と答えました。そしたら『金曜まで待つ。3番に入れておくから』と言ってくれて。本当、ありがたくて、感謝で。でも正直、自信あると言ったあとで心配になったんですけど」

――痛みは消えてくれるのかと。

「それで、(ヴァル)アサエリ(愛)さんと(中島)イシレリさんに話したら、心配するな、5分でも20分でも出て、もし痛かったら交替すればいい。任せろ、俺たちがベンチにいるんだからと言ってくれて。それで自信を持って出られました」

――無事、スプリングボクスとの準々決勝に出場。ビースト(野獣)と呼ばれるテンダイ・ムタワリラと組み合いました。

「ムタワリラは(首を深く挿し入れずに)浅く組んできました。それがうまくいかないと回してくる。そういうところがすごくうまくて。ビースト本人も重いし、ロックも重い。南アフリカは熊谷のときより強くなっていました」

――底力。

「そうです。スクラムだけじゃなくてモールも強い。ディフェンスは壁でした。でっかい選手がふたりでタックルしてくる」

 後半24分までは芝に立った。25歳のまさに大器にとっては、初戦からここまでのすべてが実りの時間だった。

【次ページ】 「いろいろなスクラムを経験してみたい」

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