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「私は五郎丸歩を寿司屋に呼び出した」エディー・ジョーンズが振り返る、若き五郎丸とサシで話し合った夜「さて、話を聞かせてくれないか」
posted2023/09/18 17:02
text by
エディー・ジョーンズEddie Jones
photograph by
JIJI PRESS
極限状態で気力を失っていた五郎丸
2015年6月、私は、ワールドカップ日本代表チームへのプレッシャーを強めていた。30日のうち28日間、厳しいトレーニングを課した。台風シーズンのまっただ中で、暑く、絶え間なく雨が降っていた。我々は泥の中で練習した。その月は毎週土曜日に公開練習をし、数百人もの地元のファンが紅白戦を見にやって来た。厳しい環境下での試合にするため、12人対12人でプレーした。さらに、ピッチの幅を60メートルから80メートルに広げた。これは選手たちの決意を試すテストだった。どれだけワールドカップに出たいか? どれだけ不快さや苦痛に耐えられるか? 泥の拷問部屋に深く入り込んで、自分の個性を示す覚悟はあるか?
その月の第3土曜日、猛練習を終えた選手たちは疲れ切っていた。もう限界に達していた。しかし、私は巨大な泥の中で、12対12の過酷な紅白戦をもう一度やれと言った。これは選手たちがこれまで直面した中で、最もタフなコンディションだった。フルバックの五郎丸歩は対処できなかった。他の選手たちも脱落寸前だったが、何とか踏みとどまっていた。だが五郎丸はダメだった。周りについていけず、プレーする気力を失っていた。降参したと言わんばかりに頭を垂れ、とぼとぼと歩きながらフィールドの外に出た。
五郎丸を無視…「彼をじらすべき」
孤独な五郎丸に、私は何も言わなかった。彼を無視してゲームを続けさせた。紅白戦が終わると、通訳に五郎丸とあとで話をすると告げた。そう予告された五郎丸は、自分のしたことがその場でカミナリを落とされて終わりになるような問題ではなかったと気づいたはずだ。選手たちは悪いパフォーマンスをしたり、いつもより覇気のないプレーをしたときには、そのことを自分でよくわかっているものだ。五郎丸は、控え室で私が近づいてくるのを待っていた。だが、私は何も言わなかった。いつもの土曜の夜のように、過酷な1週間の最後に行うハードな紅白戦のあと、チームみんなでビールを飲みに出かけた。リラックスして楽しむことも大切だ。私は選手たちとは交流したが、五郎丸のことは避けた。