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沸騰! 日本サラブ列島BACK NUMBER
熱中症などで2頭が犠牲に…“伝統の祭”相馬野馬追の現場で何が起きていたのか?「あらかじめ策を講じていたが…」「日程変更には大賛成」
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byAkihiro Shimada
posted2023/08/26 17:01
熱中症などによって2頭の馬が亡くなった2023年の相馬野馬追。人馬の安全のため、開催日程の変更が検討されている
取材をつづけるうちに、相双地方に住まう友人も多くでき、毎年、それらの人々や、何年も出陣している元競走馬や、初めて出陣する馬たちに会うのを楽しみにするようになった。
相双地方における“人と馬の関係性”とは
馬というのは、人間の何倍も大きく、飼育するための広いスペースと、飼料代や獣医師への診療費、装蹄代などの費用が必要になる。地域や、土地を所有しているかどうかなどにもよるが、1頭につき、毎月5万円から10万円の出費を覚悟しなければならない。ちなみに、競走馬をJRAの厩舎に預けると、月々の預託料は70万円ほどにもなる。
サラブレッドは「経済動物」とよく言われるが、実際に馬は犬や猫などの愛玩動物とは異なり、人間とギブアンドテイクのバランスが取れる仕事があってこそ共生することが叶う、特殊な生き物なのである。
古来、馬は農耕のパートナーであり、豪族たちにとっては所有する野馬の数で勢力を示す「力の象徴」でもあり、人々の移動手段でもあり、第2次世界大戦終結までは貴重な軍需資源でもあった。
そうした役割が、敗戦と、自動車などの発達によって大きく変わり、競馬という巨大レジャー産業や、乗馬という娯楽の主役となって人間の経済活動に関わるようになった。最初の仕事を終えた馬たちの働き場所が、年に3日のお祭ではあるが、ここ相双地域にはある。年に3日と書いたが、実際には春秋の競馬大会も行われたり、東京など他地区の祭やイベントに参加したり、JRAや地方の競馬場で甲冑競馬のデモンストレーションをしたり、ホースセラピーに加わったり、七五三の撮影のモデルになったりと、活躍の舞台は少なくない。
相馬野馬追に参加する馬の半数ほどはこの地域で繋養されている馬で、残りの半数ほどは、ほかの地域の乗馬クラブなどから、野馬追の期間中だけ借りてきた馬だ。
騎馬武者たちは、野馬追の3カ月ほど前のゴールデンウィークあたりから「練馬(れんば)」と呼ばれる野馬追に向けた調教を本格的に始める。早朝、蹄鉄がアスファルトを叩く音で目を覚ます人もいるし、路上にボロ(馬糞)が落ちている光景が珍しくなくなる。
この地域の人々は、馬たちをとても大切にしている。彼らがどのように馬と共生しているのか、また、野馬追に出陣するにあたり、甲冑や、旗指物になれさせる馴致はどのようにしているのか――といったことは、後編で紹介したい。
<後編につづく>