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スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「現役引退はないですから…」あの“元祖カーリング娘”小笠原歩さんの今「初めてのパワポ作りは地獄でした(笑)」超多忙なコーチ生活
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byJMPA
posted2023/08/21 17:30
2009年に出産、子育てを経て競技に復帰。2014年のソチ五輪に出場した小笠原歩さん
「同期には、代表クラスのコーチ、医科学スタッフがいて、それだけでも刺激になりました。ただ、選手上がりでコーチ歴もない私は無知すぎて、インプットが膨大となってしまいました。アカデミーは結構ハードなスケジュールで、月曜から木曜まで通しで授業があり、最終週には試験もありました。私は週末になると北海道に帰り、その週末にアカデミーの課題をこなしつつ、カーリングの現場指導のアウトプットを作っていましたね。特に、プレゼン資料として、パワーポイントを初めて作成することになって――これは地獄でした(笑)。そしてまた日曜日に東京に戻るという目まぐるしい時間を過ごしていました 。コロナ禍が始まる前で、対面で行われていたのも良かったです。コーチングに関することばかりを学ぶのではなく、医科学的な講義や、法律、マーケティング論、それに組織マネージメントや言語技術を学ぶ授業があって、これが私には大きな刺激になりました」
「17歳に私の言葉は伝わっているのか?」
中でもいちばん印象に残っている授業は「言語技術」だった。
「ユース・オリンピックのカーリングは男子2名、女子2名で構成される混合団体の選手たちです。彼ら、彼女たちはまだ高校生で、全員17歳。最初、私は4人に向けて自分が思っていることをバーッと伝えてしまうこともあったんです。でも、言語技術を学ぶうちに、『これは、本当に伝えたいことが伝わっているのか、分からないな』と思うようになりました。カーリングに対する自分の知識と、10代の選手たちの知識とでは量が違います。たぶん、伝わり切らないことがあったんですよね。それを認識したうえで、伝わっているかどうかを毎回確認して伝えるようになりました」
小笠原さんが意識したのは、「目線を選手に合わせること」だった。
「これも、アカデミーで学んだことです。東京オリンピックの七人制ラグビーの監督だった岩渕健輔さんが講師でいらっしゃって、『状況を俯瞰すること』の重要性を話されたんです。果たして、自分は17歳の選手たちに伝わるように話しているのか? 目線を落として話せているかどうか。状況を俯瞰して分析し、自分自身にフィードバックすることがすごく大切だと実感しました」
「競技を続けてもらう種を蒔く」
2020年、コロナが世界を席巻する前に開催されたユース・オリンピックで、日本は見事決勝に進出し銀メダルを獲得している。
小笠原さんの担当チームは結果を残し続けていて、女子の世界ジュニアでは2022年は金、2023年は銀を獲得している。