大事なのは、契約がまとまり次第、新天地で活躍できるような状態にまでコンディションを上げておくことだ。それにヨーロッパのどこへでもすぐに移動できるところから少し離れることで、頭を冷やすことも悪くはないと考えた。

「ありがたいことに、フリーで獲得できる状態にあったから、オファーには困らなかったんですよね」

　だから、7月終盤に再び、日本に帰ることにした。ただ、そのとき頭にあったのは、おそらく夏の移籍期限を迎える8月末頃までは日本で待つことになるだろうという予感だった。

「オレの誕生日、“日本で”過ごせるで」と思わないと

「本当は、どのチームに入るにしても、リーグ開幕戦からスタメンで出たいと思っていましたからね。もちろん、焦りはありましたよ。でも、こればかりはどうしようもないし。ハセさんにも助けられたし、同級生のマネージャーにも……まぁ彼を呼んでわずか3日後に日本に帰ることにしちゃったんですけど（笑）。

　それでも、開幕から3試合くらい出られないとしても、そのあとに代表ウィークを挟んで、CLを含めた連戦になるスケジュールだから、そこに照準を合わせることにしてもいいだろう。もう気長に待とう、と思うようにしていました」

©Kiichi Matsumoto

　そして、帰国するタイミングで家族には伝えた。

「ヨーロッパに行ってから初めて、俺の誕生日を家族みんなで、『日本で』過ごせるで。それもええやろ」

　そう思わないとやっていられなかった。そうやって、一度は腹をくくった。

　冷静になったのが良かったのかもしれない。それまでは2月時点で照準をしぼった2つのクラブに移籍することしか頭になかったものの、それ以外のクラブのことも考えてみる余裕が生まれた。移動を挟んで、長谷部のアドバイスも聞いて、冷静になったことで、その他の興味を示してくれるクラブにも目を向けることができた。

「それならラツィオがいいじゃん」

　そんな折だった。これまでも興味を示してくれていたラツィオからの正式なオファーが届いたのは。話を聞いてみれば、誠意を感じるし、何より稀代の戦術家であるマウリツィオ・サッリが指揮を執っているというのが大きかった。

　同時に長谷部がこう言っていたのもわかった気がした。

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