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「こんなに重いの持ったことない! できるかな~?」と言いながら…藤澤五月の“バキバキボディ”を作った女性トレーナーが明かす「オリンピアンのストイックさ」
text by
音部美穂Miho Otobe
photograph by左:FWJ提供/右:Yuki Suenaga
posted2023/08/10 11:03
バキバキの筋肉が話題になったカーリングの藤澤五月選手(左)とトレーナーのマムシ〇口子(まむしまるくちこ)さん
一番つらいのは……大会2週間前ごろ!
――聞いているだけでつらそうです……食欲に負けて挫折することはないんですか?
マムシ 直前になるとゴールが見えてきて、食欲よりも「ここまで頑張ったんだから、この状態を崩したくない」という気持ちが勝るので、わりと我慢しやすいんです。一番つらいのは、大会2週間前ぐらい。本番までまだ少しあるし、体も極限状態でメンタル的にも苦しい。ここを乗り越えられるかどうかがボディメイクの最大の山場といえるかもしれません。
――藤澤さんも、大会前は1日1000キロカロリー以下に抑えていたのでしょうか?
マムシ 彼女はもともと、「たくさん食べて、たくさん動く」という生活をしていたので、代謝がすごくいい。そのため、最後まで1日1200キロカロリー分ぐらいは食べていました。ただ、食べているといっても代謝が高い分、体が枯渇してくる。また体脂肪率も下がってくるので、エネルギーの備蓄がなくなり、疲れやすくなります。
藤澤さんは弱音は吐かなかったですが、この時期には、さすがに特有のイライラ感や焦燥感があったかもしれません。有酸素運動のため一緒にウォーキングをしている時に、話しかけたらニコニコしてしゃべってはくれるものの、横顔がちょっとつらそうだったんですよ。あとで「あの時、本当はつらかったよね?」と聞いたら、「いやもう、早くゴールにたどり着かないかなと思ってました!」と苦笑していました。
――そういったキツい時期は、どのように励ましていましたか?
マムシ 私も毎回、減量末期はつらいんですが、藤澤さんは初挑戦なので、つらさに加えて「この先、どんなことが自分の体に起きるんだろう」という不安もあったことでしょう。なので、「今はしんどいけれど、こんな体に変わっていくよ」とか「もう少ししたら、食事の内容も変わるよ」と予告して、少しでも不安を取り除けたらいいなって。
藤澤さんも「本当に、言われたとおりに体が変わっていきました」などと頻繁に連絡をくれました。距離が離れている分、こういったやり取りを頻繁に重ね、冗談も交えながら楽しく情報を共有していましたね。彼女のすごいところは、しんどい局面を楽しめるところ。「キツい」とか「つらい」って声に出していうのですが、「もうやりたくない!」という感じではなくて、そのつらささえ、飄々と楽しんでいる感じなんです。「普段からトレーニングに対してこういったポジティブな向き合い方をしているからこそ、五輪メダリストになれたんだな」としみじみ感じましたね。
《#3につづく》
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