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大阪桐蔭“じつは準決勝にあった”異変「好プレー後のグラウンドで…」「満場一致で決まった4番」「急激に伸びた2年生」なぜ王者は敗れたのか?
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph bySankei Shimbun
posted2023/07/31 11:37
大阪大会決勝で履正社に敗れた大阪桐蔭ナイン
しかし、この時は違った。ラマルが捕球してチェンジになると、他のメンバーがそそくさとベンチへ引き上げてしまった。個を高めてきたチームが一つになりきれていない。そんな印象だった。
「前田のチーム」と呼ばれて…
今年の大阪桐蔭は“前田のチーム”。そう言われ続けてきた。
1年秋からほぼエースと言っていいほどの存在感を見せてきた前田悠伍は、チームの大黒柱だった。前田がなんとかしてくれる――前年から依存度が高かったため、その意識がなかなか抜けきれなかった。
前田本人も内情をこう吐露している。
「3年間は嬉しいこともありましたけど、苦しいことの方が多かったですね。とくに、昨夏の甲子園で下関国際に負けてから新チームになった時は苦しかったです」
それでも、昨秋は大阪、近畿大会を制し、つづく明治神宮大会では史上初連覇という偉業まで達成している。その神宮大会では、準決勝で完投した前田が決勝にも登板するという絶対的存在だった。
しかし、今春のセンバツ準決勝では前田が救援に立ったものの打たれたことで、チームは沈んだ。それをカバーできず、そのまま敗れた。そうであっただけに、春から夏にかけて、本当の意味で前田依存を払拭しなければいけなかった。
指揮官が春の大阪大会のベンチから前田を外したのも、そのためだった。
もっとも、前田依存を払拭するということには二つの意味がある。一つは戦力として、前田に頼らないようにする。つまり「個の成長」が不可欠だった。二つ目は、その伸びた個を一つの集団にすることだった。
「2年生ピッチャー2人」は衝撃だったが…
投手陣に関しては個の成長も、チームとしてのつながりを考えても順調な仕上がりだった。
事実、今夏は決勝まで、前田を2試合登板のみにとどめた。エースが決勝を迎えた時点で、疲労が一つもない。これは大きなアドバンテージだった。
成長を見せたのは2年生の2人。ともに145kmを超えるストレートを持つ境亮陽と平嶋桂知だった。
準々決勝では平嶋が6回を投げて2失点に抑えてゲームメイク。最後の1イニングを境が締めた。
準決勝では1点ビハインドの6回から境が4イニングを抑えて悪い流れを止めた。8回に同点に追いつき、延長10回からタイブレークになると平嶋がマウンドに上がり、ゲームを制したのである。