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「練習は“あの”東尋坊の崖からダイブ」「競技人口は日本で1人だけ」…“27m=ビル10階から飛び降りる”ハイダイビング日本代表・荒田恭兵とは何者か? 

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田坂友暁

田坂友暁Tomoaki Tasaka

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photograph byAFLO

posted2023/07/27 11:00

「練習は“あの”東尋坊の崖からダイブ」「競技人口は日本で1人だけ」…“27m=ビル10階から飛び降りる”ハイダイビング日本代表・荒田恭兵とは何者か?<Number Web> photograph by AFLO

日本人初となるハイダイビングでの世界水泳出場を果たした荒田。ビル10階相当の27mの高さからダイブする異例の競技だ

国内には…指導者も練習場所もない!

 ただし、日本では27mの飛び込み台などもちろん存在しない。そもそも競技者がいないのだ。練習する場所も、教えてくれる人もいない。どうしたらいいか分からないなかで、荒田の生来の物怖じしない、人の懐に入り込むのがうまい性格が功を奏した。国内にあるわずかな情報を頼りに、2018年6月、単身でオーストリアの施設で行われるハイダイビング合宿に参加できる機会を得たのだ。

 そこでの経験は「忘れられない」と荒田は振り返る。全てのことが初めてだった。英語も分からず、それまではひとりで海外に行くことすら経験していなかった。

 だが、分からないことだらけだったことが、かえって楽しかった。

 なぜならそれこそが日本人の誰もやったことがない証拠であり、その第一歩をいま自分が踏み出している実感があった。その感情は、荒田を突き動かすには十分だった。

 初めて飛んだ1本目のダイブ。あまりの水面の遠さに手汗が出た。

 恐怖に打ち克ち「何とか飛んだ」というのが実際のところである。バランスを崩して、お世辞にも綺麗な入水とは言えない胸からのダイブだった。それでも、「日本人が初めて27mから飛んだ」瞬間を自分が作り上げたことに、震えるほど感動したという。

 その後は新型コロナウイルスによる世界的な感染症禍もあり、なかなかハイダイビングに取り組む時間が取れずに苦労した時期もあった。それでも試行錯誤を繰り返し、YouTubeに挑戦したり、ブログでハイダイビングのパイオニアとしての情報を発信したり、さまざまな手法で競技との関わりを続けた。世界のスポーツが止まっても、荒田は止まらなかった。

 続けていれば、チャンスは訪れる。

 福岡で開催される世界水泳2023への出場権を懸けて、今年5月に米・フロリダで行われたワールドカップに出場することになったのだ。ここで24位以内に入れば、福岡への切符が手に入る。荒田は燃えた。ここで出場を決めれば、もちろん「日本人初」となるハイダイビングでの世界水泳出場である。またしても、自分が新しい道を切り開くことができるかもしれない——。

【次ページ】 「プールだけでは技術を磨けない」日本中の崖を巡ったことも

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荒田恭兵
日本体育大学

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