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「握力は計測不能でした」怪力無双・魁皇が語る“相撲嫌い”だった少年時代…『サンクチュアリ』よりも過酷な日々に「えらいところに来てしまった」
text by
飯塚さきSaki Iizuka
photograph byShigeki Yamamoto
posted2023/07/08 11:20
少年時代は“相撲嫌い”だったという元大関・魁皇の浅香山親方。ロングインタビューで「記録にも記憶にも残る名大関」の歩みに迫った
中学時代に80kgだった握力は18歳で「計測不能」に
――気持ちが切り替えられてからは、実力もどんどんついてきたのでしょうか。
最初の1、2年は苦しい時間でしたが、途中から徐々に、体というのは鍛えれば鍛えるほど力がつくんだな、という実感が湧いてきました。17、18歳くらいでしょうか。1カ月くらい巡業に出ると、巡業に行く前に勝てなかった人に、帰る頃には勝てるようになっているんですよ。そのあたりから相撲が楽しくなってきて、稽古も苦ではなくなりました。
――手応えを感じ始めて、きつい稽古の意義がようやくわかってきた、と。
まさにそんな感じでしたね。九州場所で地元に帰ったときに、久しぶりに会った友人たちと“力比べ”をしていたんですが、柔道だったりラグビーだったり、どんなに運動が得意な同級生も比じゃないくらい自分のほうが強くなっているわけです。そのとき、「やっぱり相撲取りの世界ってすごいんだな……」と素朴に思いました。中学時代から握力だけは強くて80kgくらいあったんですが、18歳の頃にはもう計測できませんでしたから。
――ああ! そういう「魁皇の怪力伝説」が聞きたかったんです(笑)。
健康診断のときに握力を測定するんですけど、グッと握ったら「カチ」って音がして、針が100kgのところで止まっちゃったんですよ。針が端を指しているのを見た先生が0kgだと勘違いして「君、真面目にやりなさいよ」って言うから、「いや、もうこれ以上は動かないんですけど」って(笑)。
――現役時代の握力は100kgを優に超えていた、と……。まさしく怪力無双ですね。
やっぱり「お相撲さんは力持ち」というイメージで育ちましたので、少しずつ自分もそれに近づいているんだな、と思えましたね。邪魔な自動車を4人くらいで担いで動かす、とかね(笑)。稽古にしても、食事にしても、やることなすこと一般の人がまずできないことを、自分たちは普通にやっていた。だからこそ大相撲っていうのはアマチュアとは違う、という感覚もありました。正直、当時の稽古の質と量は異常でしたから。ただ、若貴はじめ周りはもっとすごかった。彼らとの差はなかなか縮まらないけど、離されないようにするには、普通じゃない努力をしてなんとか食らいつくしかなかったんです。
<#2に続く>