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千代の富士が叫んだ「貴乃花、痛かったらやめろ!」あの伝説の“貴乃花vs武蔵丸”のウラ側…「エイ、ヤーッ!」治療師の声が聞こえた前日
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph byKYODO
posted2023/06/29 11:01
2001年夏場所の千秋楽、伝説の「貴乃花vs武蔵丸」。貴乃花が見せた“鬼の形相”
決定戦を前にした東支度部屋は、異様な緊張感に包まれていた。大銀杏を直すのもそこそこに、てっぽう柱に向かい、取り憑かれたように精神集中する貴乃花。その場にいる誰もが、遠巻きに見つめるしかなかった。そんななか、「棄権しろ」との、二子山親方の伝言を、花籠親方(元関脇太寿山)が勢い込んで伝えに来る。しかし、貴乃花は「大丈夫です」と一言だけ即答する。てっぽうを打つ音だけが、静かな支度部屋に響いた。
◆◆◆
優勝決定戦を告げる柝(き)が入った。
いざ、雌雄を決する優勝決定戦。
土俵上、仕切る貴乃花の膝が、再び外れる。
「『力士道』としては、本来ならああいう姿を相手に見せたらいけないんです」と貴乃花はいう。「気合いは入っていても、相手は武蔵丸関だ、もう勝てるわけない」との思いも、その脳裏をよぎった。しかし、「決定戦に出るからには、せめて恥ずかしくない土俵態度を示さなければ」との矜恃。そんな貴乃花に「土俵の神様」がわずかに味方する。塩を取りに行った際、膝を回すと、奇跡的に、うまくはまってくれたのだ。
<後編では、あの“伝説の一番”直後に何があったのか? 貴乃花と武蔵丸2人の証言を紹介していく。>
《続く》
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