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千代の富士を知らずに角界入り…“サンクチュアリ猿谷”を演じたAmazon配達員が語る力士時代の後悔「タニマチが…当時の俺をぶん殴りたい」 

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雨宮圭吾

雨宮圭吾Keigo Amemiya

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photograph byYuki Suenaga

posted2023/06/26 11:04

千代の富士を知らずに角界入り…“サンクチュアリ猿谷”を演じたAmazon配達員が語る力士時代の後悔「タニマチが…当時の俺をぶん殴りたい」<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

力士俳優として歩み始めた今も配達業務を続ける澤田賢澄さん。『サンクチュアリ』で35kgも増量したが、「仕事で動いているので身体は軽い」

 店を後輩に譲渡し、東京に拠点を移した。お相撲さんの経験と肩書を生かし、力士俳優としてもう少し挑戦してみたい。海外でも相撲を広める活動をしてみたい。そのための転身だった。

 澤田の道筋を示してくれたのは、元幕下の先輩力士だった。力士俳優として活動し、KONISHIKI(元大関・小錦)主宰の海外相撲ツアーなどに参加。コロナ禍以前は世界中を飛び回り、すでに澤田が目指すような活動をしていた。澤田はひとまず彼の下で、夢を追うことにしたのだ。

 とはいえ、そうひっきりなしに相撲絡みの役者業があるわけではない。コロナ禍ではなおさらだった。

 澤田はその間、千葉県船橋市にあるAmazonの配送センターに通っていた。『Amazon Flex』という配送プログラムに携っていたのだ。

 同サービスは黒ナンバーの軽貨物車があれば始められ、拘束時間に応じて給料が支払われるもの。Uber Eats配達員の軽貨物版とも言えるような業務である。

 澤田の先輩力士はその仕事が将来的に力士のセカンドキャリアに生かせるのではないかと考え、自ら会社を立ち上げて配送を請け負うようになっていた。

「相撲取りの時は歩くのが嫌だった…」

「4時間やると8000歩くらいは歩くんです。エレベーターがある建物ばかりじゃないから、1日で50階分くらいは階段を上がる。しかも、高層階ほど自分では運びづらいから重たい飲み物のケースとかが多くなる。いまは体重130kgぐらいありますけど、おかげでよく動けますよ。相撲取りの時は歩くのが嫌で一駅でもタクシーを使っていたのが、今は二駅ぐらい平気で歩いてます」

 配達の仕事は時間の融通が利く上に、力士俳優としての体づくりにも一役買ってくれた。

「辞めた力士の受け皿になるという点も、なるほどいいアイディアだなと思いました。飲食しかやってきていない自分ができるようになるなら、いろんな力士にできるはず。海外での相撲ツアーとかがない日はこれで稼ぐっていうのが現実的な方法に思えたんです」

 昨年5月にこの仕事を始めてからはめきめきと“上達”し、配達しきれない他車のヘルプも任されるようにもなった。それでも、コロナが明けず、ドラマの公開時期もまったく見えない時期には、配送車がずらっと並んだAmazonの倉庫の裏で「この先、俺どうなるんすかねえ」と先輩に不安を吐露することもあったという。

 ただ、ネットフリックスでドラマが公開され、それなりの成功を収めた今も、澤田は当たり前のように配送を続けている。帽子をかぶり、マスクをしているため気づかれることはほとんどないが、それは劇中で演じた猿谷のセカンドキャリアを見るようでもある。

【次ページ】 「何かあったらタニマチが小遣いくれる」

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