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藤井聡太は張本智和のサーブを鋭く打ち返した…張本が驚いた、藤井聡太の“正解を見つけ出す力”「訪れてみたい国は?」「平成最大の出来事は?」答えは…
text by
北野新太Arata Kitano
photograph byTadashi Shirasawa
posted2023/06/23 11:02
15歳の藤井聡太はスポーツ紙の対談企画で1歳年下の張本智和と卓球で対戦。張本のサーブに当初は苦戦した藤井だったが…
互角のまま進行した1日目は藤井の手番で封じ手時刻の午後6時を迎えた。飛車を逃げる一手が必然と検討されていたが、藤井は指し手を封じる前、さらに20分の考慮時間を投入して盤上の一点を見つめていた。もうひとつの可能性を掘り下げていたことは明白だった。まさか、もしかしたら、彼なら……。勝負を見守る者たちの胸を、真夜中の間にも高鳴らせる魔法だった。
8月20日午前9時。封じ手が開封される。盤上最強の駒である飛車を献上して一気に相手陣へと迫っていく決断は、挑戦者にとってもはやリスクではなかった。
「封じ手の局面は自信がなかったので強く踏み込んでいきました。積極的に行ったのは良かったです」
強くなる、という目標は変わりません
王位を得た藤井は史上最年少二冠、史上最年少八段になった。会見場に配布された号外に躍る見出しにもなったが、当事者は年齢による比較や段位という指標について最後まで興味を示そうとしなかった。
「強くなる、という目標は変わりません」
緊急事態宣言解除による対局再開後、6月2日からの80日間を20勝3敗で駆け抜け、ダブルタイトルを手にした。
今の藤井には敗れること、失うことを恐れる必要がなかった。負ければ、敗因を顧みて明日への糧にすればいいだけだった。勝てば、確信はさらに揺るぎないものになった。圧倒的に若く、時として足枷にもなる経験を持っていなかった。頂点に立ってなお、誰よりも謙虚だった。どんな時も笑みを絶やさず、負の感情を示さない態度は世界や人間への根源的な肯定とも思えた。彼を形成する全ての要素が彼の強さを支えていた。