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〈卓球女子なぜ大混戦〉水谷隼が伊藤美誠が抱える“ジレンマ”を代弁「あっさり負けることが多くなった」パリ五輪シングルス代表の行方は?
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byItaru Chiba
posted2023/06/21 17:01
パリ五輪シングルス代表の選考レースで現在、3番手につける伊藤美誠。今大会から世界ランキングではなく、国内独自のポイントシステムで選考が行われている
粘り強さがなかなか発揮できていないのは疲労も関係しているのかもしれない。
国内外で一気に試合数が増えたことで、伊藤の体は満身創痍だ。連戦のなかで臀部や腰付近の故障を抱えながらギリギリの状態で戦ってきた。
「半年ほど故障を抱えながら戦っているので、精神的にもすごくつらい状況だろうと察します。万全ではない状態で、しかも結果を残せていないとなると、周りから『ダメなんじゃないか』というような声も聞こえてくる。彼女の場合、勝つことよりも負けることにより注目が集まってしまう。なにより期待されているからこそ、応えられない自分自身にジレンマを感じているというか。いろいろなことがかみ合っていない状況だったんだと思います」
水谷が代弁する伊藤が抱えるジレンマ
伊藤はこれまで中国選手に向かっていくことで、日本人や海外の選手に勝利してきた。圧倒的な練習量で、どの国の選手にも勝てる選手を目指して研鑽を積んできた。ただ、Tリーグに参戦し、国内の選手との対戦も増えたことで、相手も彼女を研究し、対応してきている。
「伊藤選手はサービスがうまい選手なので、対戦すればするほど、(相手は)サービスに慣れる。最近の選考会を見ていて感じるのは、みんな徹底して伊藤選手の弱点を攻めているという点。伊藤選手自身も、みんなが同じような攻め方をしてくるときっと感じているはず。相手の戦い方を見て試合のなかで自分自身のプレーを変化させなければいけないし、それが出来る選手なんですが、出せていない。新しい戦術やテクニックを見せられたらいいんでしょうけど、試合数が多いと、集中して時間をかけて練習する時間がない。短期間で身についたことを大事な試合でやることほど勇気がいるものはないので、今持っているスキルで勝負するしかない。
ただ、選考ランクも3位に上がってきて、ある程度、余裕も生まれていると思うんです。だからこそ、1試合負けてもいいからいろいろ試しにいって、次につながる試合ができたら、また本来の伊藤選手らしいプレーが出て、勝てるようになるんじゃないでしょうか」
かつての“相棒”に水谷さんがエールを送る。