パリ五輪選考レースも1年3カ月あまりが経過。伊藤の試合を見ていて気になるのは、セオリーを覆す奇想天外なプレーが影を潜めていることだ。

「以前と比べると、粘り強さが減り、あっさり負けることが多くなったような気がします。余裕があるときは、試合のなかで驚くようなプレーができているんですが、今は『思い切ったな』とか『弱気だな』程度。予想範囲内のプレーが多く、相手にもプレーが読まれやすいような印象です」

水谷だからこそわかる伊藤の真骨頂

　伊藤の強さの秘密は強靭なメンタルと卓球の常識を覆すようなプレースタイルだ。何をしてくるのか分からないプレーこそ、伊藤の真骨頂。

「まさに変幻自在。チキータも普通にやりますし、右から左に曲がるレシーブもするし、女子ではほとんど使うことがないカットブロックも使う。しかも、それを競っているような勝負どころでやるんです。大事な局面で変化球を出すことは、とても勇気がいるし難しいことでもあるんですが、それを当たり前のようにできることが彼女の強み」

東京五輪・混合ダブルスでペアを組んだ水谷隼と伊藤美誠　©︎JMPA

　実際、21年夏、東京五輪で金メダルを獲得した混合ダブルスでも試合中に何度も驚くことがあったという。

「まったく使っていなかったサービスを、最後の一本という場面で出してきたときは、僕もびっくりしました。一発目はどうしても緊張してしまってミスをしたり、甘いサービスになってしまうものなのですが、伊藤選手はそこでいいサービスを出すテクニックとメンタルを持っている」

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