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巨人打線のキーマン・秋広優人20歳が“急成長中”なワケ…原辰徳監督の若手育成術とは?「我々にできることはチャンスを与えることだけだ」 

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鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2023/06/20 17:02

巨人打線のキーマン・秋広優人20歳が“急成長中”なワケ…原辰徳監督の若手育成術とは?「我々にできることはチャンスを与えることだけだ」<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

巨人打線のキーマンとして活躍中の秋広優人20歳。松井秀喜の55番を背負う期待のホープだ

 だから門脇のスタートも良かった。ただ、それを上回ったのが太田の送球だったのである。本当にここしかないというところにピンポイントで送球がきた。少しでも逸れていれば盗塁は成功していたが、太田の送球が勝ったということだ。

 それがこの二盗の戦術的な背景と結果である。ただ、ここでこのプレーにはもう1つ、違う意味があったと感じる。この局面でルーキーを代走に送り、そして走らせる。そこに原監督が考える、選手の育成のカギがあるのではないか。

 この一見、無謀な盗塁死の場面を見て、フッと思い出したことがある。

 それは原監督の第2次政権時代、2014年7月11日の阪神戦で見せた一手だ。6回の阪神の攻撃。2点を勝ち越され一死ニ、三塁で左の今成亮太内野手を迎えた場面で、原監督は左翼を守っていた亀井善行外野手を内野の一、二塁間に移動させて、内野を5人にするシフトを敷いた。阪神ベンチがスイッチヒッターの西岡剛内野手を代打に送ると、一回はシフトを解除。しかし2ボール2ストライクとなったところで、右打席の西岡に対して、今度は亀井に三塁と遊撃の間を守らせて“内野手5人シフト”を敢行したのだ。

 結果は2人になった外野に飛球を打たれて2走者が生還。試合は5対12と大敗した。

 もちろんこの采配は翌日には手ひどく批判されたが、原監督は全く気にしていなかった。

「いつか勝負をかけるときに必要になるかもしれないと、前から守備のオプションとして考えていた。実際にそういうシチュエーションで守ってみることで、選手は見えてくる景色が変わるはず。いざという時のために、そういう経験を積ませるチャンスだと思った」

 もちろん目の前の試合で勝つための1つの選択ではある。ただ、同時に選手は1度、実際に経験することで、次の本当に大事な局面で生きるはずだということだ。

 その経験が選手を成長させる。

「我々にできることはチャンスを与えることだけだ」

 門脇は1年目ながら強肩を生かした圧倒的な守備力で一軍に定着。中田翔がケガで欠場した際には、三塁を守ってファインプレーを連発。守りで結果を残し、自らの力で一軍枠を手に入れた。

 スピードもあり、打撃を鍛えれば、将来的には坂本の後継者として、遊撃のレギュラー候補としても期待される選手である。

 その候補生をどう育てるか。

【次ページ】 「我々にできることはチャンスを与えることだけだ」

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