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5年前の新人王が“球速へのこだわり”を捨てた日…東克樹27歳が明かす、復活の理由「もうそういうタイプじゃなくなった」「宮城大弥投手を参考に」
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byJIJI PRESS
posted2023/06/19 11:01
今季、ルーキーイヤーとは違ったスタイルで相手打者を手球に取る東克樹。今季チームトップ6勝の勝ち頭が、復活のきっかけとなった試合を語った
「真っすぐの質というか、ピッチャーの生命線であるストレートの出力が出ていませんでした……」
東には、ある思いがあった。それは近年よく言われている“TJ手術後はストレートが速くなる”という説だ。もちろんそういった例は多いわけだが、誰にでも当てはまるというわけではない。
「術後は球速が上がるというのが世間一般のイメージですから、そこに縛られ過ぎてしまったのかなって……。とにかく、真っすぐを速くしなきゃ、強くしなきゃいけないという思いばかりで上手く行かず、非常に苦しかったですね……」
2回5失点で「もうガラッと変えるしかない」
その“呪縛”ともいえる球速への思いは、昨季を終えたオフもしかり、春季キャンプのころまで東の心を巣くっていた。
「オフもそれをテーマにトレーニングに取り組んで、思い通りの体作りもでき、キャンプではブルペンに入っても真っすぐの状態はすごく良かったんです」
「行ける!」との期待を胸に、満を持して挑んだ一発目の練習試合、儚くも東の自信はガラガラと音を立てて崩れていってしまう。2月12日のヤクルト戦(浦添)だった。東は7回裏にマウンドに上がると、2イニングを投げ5失点(自責点4)を喫してしまう。球場のスピードガンによるストレートの球速は130キロ台後半止まりであり、加えて本塁打も浴びてしまった。
「いざ、対バッターとなったとき、まったく良くなかったんです。真っすぐを追い求めていた分、どうしても力で抑えようとしてしまい、体の開きが早くなってしまったり、思うようなボールが投げられなくて……」
再び闇に突き落とされるような結果。だが、この手痛い経験により腹がくくれた。
「もうガラッと変えるしかない、と。結果的にあの試合が中途半端に良かったりしたら、きっと今も苦しんでいたと思いますね」
新しい自分
投手にとってストレートは言うまでもなく重要だが、“球速”がすべてではない。要は切れのある強いボールを正確に投げればいいのだ。
そう意識を変えることのできた東は、すぐに行動に移った。