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一瞬でモロニーが大の字に…“衝撃KOで2階級制覇”中谷潤人がラスベガスで手にしたもの「多くの選手がナカタニとの対戦を避けてきた」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byEPA/JIJI PRESS
posted2023/05/23 17:36
衝撃的なKO勝ちで2階級制覇を成し遂げた中谷潤人。25戦25勝(19KO)の“ネクスト・モンスター”が、ラスベガスでその実力を示した
「多くの選手がナカタニとの対戦を避けてきた」
どんなにハートを熱くしても、自分のボクシングに徹するのが中谷の強みだ。この日も執拗に前に出てくるモロニーをアッパーで迎撃し、2回には左アッパー2発からうまく体を引きながら左フック、最後は右アッパーでダウンを奪った。長身サウスポーの中谷は巧みに距離を操り、多彩なパンチを打ち込んでいく。勝利は時間の問題かと思われたが、ここからモロニーが踏ん張って試合を盛り上げた。
モロニーにとってもこの試合は特別だった。幼少のころから苦楽をともにしてきた双子の兄、ジェイソンが1週間前、WBOバンタム級王座決定戦を制して戴冠。かつて井上尚弥(大橋)に挑戦して敗れたジェイソンにとって世界王座獲得は悲願だった。アンドリューは2019年にWBAスーパーフライ級暫定王者となり、ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)のスーパー王者昇格に伴い正規王者となった。とはいえ“セカンド・チャンピオン”では「自分は世界王者」と力強く胸を張れなかったのではないか。中谷に勝利し、文句なしの兄弟同時世界王者になることはモロニー兄弟の譲れない目標だったのである。
劣勢のモロニーは自らを鼓舞して中谷に圧力をかけ続けた。6、7回は中谷を再三ロープに押し込み、攻勢をアピールしてジャッジの評価を得た。しかし、先行している相手を追い上げるのは体力的にきつい。しかも相手は中谷だ。8回、中谷が距離を取ってアウトボクシングを再び機能させ始めると、モロニーは徐々に失速していった。
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「8ラウンドくらいから(モロニーに)覇気がなくなってきた」と感じた中谷は粘るモロニーにダメージを与え続け、11回にワンツーでダウンを奪う。最終回の圧巻の結末は冒頭に書いた通りである。試合後、ジェイソンが「多くの選手がナカタニとの対戦を避けてきた。アンドリューはこの試合を受け、すべてを出して戦った。本物の戦士だ」とツイートしたことも付け加えておきたい。