濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
朝倉海の“完璧なヒザ蹴り”には伏線があった…渡米に新コーチ、RIZIN復帰までの“491日間”はどう活きたのか? 記者が目撃した「圧倒的な主人公感」
posted2023/05/09 11:01
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
RIZIN FF Susumu Nagao
兄の未来が歯に衣着せぬタイプだからか、弟の朝倉海にはおとなしいというか温厚なイメージがあった。少なくとも、対戦相手と会見やSNSで罵り合いをするような選手ではない。
とはいえやはり、自分の状況について考えるところはあったようだ。一昨年の大晦日、バンタム級GP決勝で判定負け。その日の1試合目、準決勝で右拳を傷めていた。
昨年7月、沖縄大会での再起戦も直前になって見送った。ケガの回復具合が思わしくなかったためだ。同年の大晦日も試合がなかった。
朝倉海、復帰戦までの「491日」
5月6日、『RIZIN.42』有明アリーナ大会は491日ぶりのリング。試合前に流れる映像の中で、自分の胸を叩きながら海は言った。
「たまってるんで、ここに。(試合)できなかった分」
強くなっているという実感もあった。アメリカでの練習でトップ選手とスパーリング。“世界”と渡り合う手応えを掴む。現地で出会ったコーチ、エリー・ケーリッシュとの相性もよかった。彼は来日してセコンドにも付いている。エリーに教わったのは「連動」だと海。一つひとつの技ではなく、それをどう繋げていくか。MMAファイターとしての総合力を高めてきたと言ってもいい。
対戦したのは元谷友貴。DEEPで叩き上げ、RIZINでも活躍している。直近は5連勝。海が欠場している間に勝ち星を積み重ねてきた。元バンタム級王者の海と対戦する資格は充分。というより、海にとっては相当な難敵に思えた。オールラウンドな実力者に連勝の勢い。対する海は復帰戦だ。
素晴らしい躍動感…朝倉海の気迫
「もし負けたら」というプレッシャーは、実のところ海にもあった。だが、練習で得たことからくる自信が上回ったという。ファーストコンタクトでいきなり右ストレート。そこから圧力をかけ、テンポよくパンチを放っていく。右アッパーに左フック。“いつでもフィニッシュしてやる”といわんばかりの強気な攻めだ。
タックルのフェイントで相手の意識を下に向けさせ、そこから飛びヒザ蹴りも。落ち着いていて、なおかつ素晴らしい躍動感だった。本人が言うように、自信に満ちた動きだ。