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[マリナーズでの日常]選手目線のイチ流指導術
posted2023/04/27 09:03
text by
ブラッド・レフトンBrad Lefton
photograph by
Yukihito Taguchi
現役引退後も、マリナーズの練習風景にはいつもイチローの姿がある。指導する立場となって、日々メジャーリーガーとどう対峙しているのか。チームメイトたちの言葉から、その行動に隠された哲学を探った。
「一度も何かを言われたことがないんだ」
昨季アメリカン・リーグ新人王に輝き、シアトル・マリナーズの顔ともなった22歳のフリオ・ロドリゲスがそう明かした。
会長付特別補佐兼インストラクターのイチローから様々なアドバイスをもらっているにもかかわらず、走塁時のスライディングについてアドバイスをもらったことはないという。これは意外な事実である。
ドミニカ共和国出身のロドリゲスは、昨季、メジャーデビュー年での25本塁打&25盗塁という史上初の記録を達成した。25盗塁はリーグ5位。彼はいつも頭から滑り込み、二塁打の際に左手の小指を骨折したこともある。それなのに今季もヘッドスライディングを続けている。身長190cmのロドリゲスは「体が大きいから、頭から滑った方がタッチされにくいように感じるんだ」と理由を説明する。
メジャー通算509盗塁を誇るイチローは、頭からのスライディングを好まなかった。足から滑り込んだ方が最速な上に安全でもあると考えていたからだ。ロドリゲスは師匠のイチローにさまざまな技術について助言を求めたが、昨季は外野守備が中心で走塁時のスライディングまでは関心が及んでいなかった。
ここに指導する立場でのイチローのコミュニケーション術が見て取れる。無理に自分の意見を押し付けることはしない。つまり、聞かれなければ言わない。その代わり、相手が興味を示したなら時間をかけて丁寧に説明する。