イタリアでのリーグを終え、帰国後すぐに藤井のもとに駆けつけた。少し痩せて、治療の影響で髪は抜けていたが、話せばいつもと変わらず元気で、何より楽しかった。病名も進行具合も決して楽観視できるものではないとわかっていたが、それでも目の前の藤井を見て、信じた。

「大丈夫、藤井さんなら絶対治る」

　日本代表で海外遠征の期間中も、時差を考えながらその都度チームの様子を報告する。その場にいなくとも、西田にとって日本代表で「3」をつけた藤井は、変わらず共に戦う仲間であり続けた。世界選手権を終え、Vリーグが始まると、むしろ西田の体調を気遣って、今度は藤井が自分のこと以上に心配して連絡をしてきた。

「大丈夫か？　血液検査の数字どうだった？　ほんとに大丈夫か？」

「CRP（炎症や感染症を調べる数値）がやばいっすよ。でも、藤井さん、俺のことより自分のこと心配したほうがいいよ」

　何気ないやり取りだが、素直に不安を口にできるだけで救われた。徐々に体調が落ち着き、この日から試合に出られそうだと報告した時も、結婚が決まった時も、藤井はいつも自分のことのように喜んでくれた。そして最後はいつも決まってこう言った。

「まずは身体、気をつけろよー！」

「お互いにね」

　いつまでもそう笑い合えると信じていた。

東京五輪で8強入りを決めて喜ぶ藤井直伸と西田有志　©︎JMPA

「藤井さんじゃん」夢の中で話したこと

　2023年3月10日。西田が藤井の訃報を耳にしたのは、翌日に控えた試合に向けての練習を終えた時だった。

　ジェイテクトに復帰してから、なかなか会うことができなかった。記憶に残るのは約1年前のイタリアから帰国直後に会った時の姿と、共にバレーボールをしてきた数々のシーン。笑顔しか浮かんでこない。通夜に参列してもまだ、ふとした時にあの声が聞こえてくる気がしてならない。藤井の姿を思い出すたび、泣いてばかりいた。

　そんな西田を気遣ったのか、今季のVリーグ最終戦を迎えた26日の明け方、不思議な夢を見た。

　ふらりと居酒屋に入ると、そこに藤井がいた。夢とは思えないほどはっきりと。

「藤井さんじゃん」

　たとえ夢でも鮮明に現れた姿が嬉しくて、ベタベタと触りながら尋ねた。

「藤井さん、自分が死んじゃったの、わかってる？」

　笑いながら、藤井が言った。

「わかってるよ。もっと、バレーボールしたかったな」

©︎Yuki Suenaga

　夢から覚めたら、ボロボロと涙が溢れていた。夢じゃなく、現実ならよかったのに。でも夢の中でも藤井さんは藤井さんだった。いつまでも泣くなよ、と言われたのか。そう思うと、覚悟が決まった。

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