Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
「藤井(聡太)先生は今も強くなっている。でも…」新鋭17歳・藤本渚が語る“将棋・家族とミスチル愛”「父とシーソーゲームを歌って」
text by
北野新太Arata Kitano
photograph byAi Hirano
posted2023/04/02 11:04
18歳の藤本渚四段。ABEMAトーナメントをはじめ今後の将棋界での活躍に期待がかかる
「負ける度に意識は変わって。気が付くと僕にはもう将棋しかなくなっていました」
中学卒業時、家族で大阪に転居した。息子の夢を支えるため、父は40代半ばで転職までした。
「だから、苦しい時期を見ていた父に昇段を伝えられたことは何より嬉しかったです。『本当によかったな……』と言ってくれて」
「藤井先生は今も強くなっている。でも」
10月1日付で四段になった。
三段リーグを2期で駆け抜けた17歳の道程は、過去の天才たちとも重なるが、本人は「怖いです」「不安です」と繰り返す。
「タイトル獲ります、どころか、プロです、と言えるほどにも強くなくて。今の自分が目標にできるのは年度勝ち越しくらいです。リーグを重ねて強くならないといけないと思っていたので、今はただ怖いです」
多彩な武器など持ってはいない。
「居飛車党で相掛かりを主に指しますけど、角換わりも横歩取りも定跡を全く知らないので指せません。矢倉、雁木はちょっとだけ。振り飛車も指せませんし」
謙遜しつつ「だから不思議なんですよ……」と恐縮する。
「自分に自信を持たないと生きられない世界かもしれないですけど、まだ自分に自信は必要ないのかもしれません。強くなることが目標です」
現代において新しく棋士になることは、藤井聡太と同じ時代を生きること、生きなくてはならないことを意味する。頂点を極めるためには、どこかで3学年上の覇者を超えなくてはならない。
「藤井先生は今も強くなっている。でも、ちょっとでもいいから僕の方が強くなるスピードを速くしていかないといけないなと。じゃないと一生追いつけないので」