濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「葛西純を見ろ、この背中を見ろ」“デスマッチのカリスマ”は、2連敗でもドラマを作った…異例の第1試合で竹田誠志と見せた「全力疾走」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2023/02/07 17:00
“4年ぶりの黄金カード”となった葛西純vs竹田誠志
それでも勝ったのはドリューだ。必殺技スワントーン・ボムを2発決めた。リングに蛍光灯で作った十字架を持ち込み、頭には有刺鉄線の荊冠。クリスマスにキリストの受難になぞらえた姿で試合に臨んだドリューの姿を見て、以前インタビューした時のことを思い出した。日本での生活を楽しみながら「でもクリスマスに家族と一緒にいられないのは寂しい」と言っていたドリュー。試合前にも、バックヤードで母親とビデオ通話をしていた。
「会いたいよって言われたけど、俺は“これから葛西純とデスマッチなんだよなぁ”って(笑)」
葛西からの勝利は、自分の力で掴んだ最高のクリスマスプレゼント。前回のタイトルマッチではもう一人のトップ選手である竹田誠志に勝っており「これ以上、何がある?」と喜びを語った。
葛西が今どうしても竹田とデスマッチをしたかった理由
葛西は敗れたものの「葛西純の全盛期は10年後」と胸を張った。だが心残りもあった。ベルトを巻き、初防衛戦を1月3日の新木場1stRING大会で行なうと宣言していたのだ。挑戦者には盟友にしてライバルの竹田を指名していた。インタビュースペースで、葛西はノンタイトルでの試合実現をアピール、いや懇願する。
「明日何が起きるか分からない今、アイツとやることをあきらめきれない。タイトルマッチじゃなくていい、なんなら第1試合の10分一本勝負でいい。タイミングを待ってちゃいけないんだ、タイミングを作らないと。これは葛西純の最後のワガママです! お願いします」
泣きながら床に手をつく葛西。「全盛期は10年後」なのに今、どうしても竹田とデスマッチをしなければならない理由があった。それは試合後に明かされることになる。
葛西純vs竹田誠志は「全力疾走のデスマッチ」に
年が明けて1月3日。葛西純vs竹田誠志のデスマッチは、本当に第1試合の10分一本勝負になった。葛西曰く「全力疾走のデスマッチ」。4年ぶりの黄金カード実現だった。
この2人に10分は短すぎる。誰もがそう感じていたはずだ。激しく、密度の濃い時間切れ引き分けになるのではないかと筆者は予想していた。だが激しく密度が濃い試合は、竹田の勝ちになった。フォークを何十本と立てたボードの上へリバースUクラッシュ改で叩きつけて3カウント。
ファイトスポーツでは、よく「拳で会話する」という表現が使われるが、葛西は実際に言葉を使う。この試合では「竹田おかえり! お前がいないとダメなんだ!」であり「お前にはデスマッチしかねえだろ!」。
なぜ「おかえり」なのかといえば、竹田が昨年、長期欠場しているからだ。原因は1月に妻が亡くなったこと。幼い娘もおり、気持ちも生活も落ち着かせる必要があった。夏に復帰、ドリューのベルトに挑戦もした竹田だが、葛西はまだ本調子ではないと見ていたようだ。