猛牛のささやきBACK NUMBER
「え!栗山監督?」朝イチの着信で聞いたWBC日本代表入り…半年前は育成契約だった宇田川優希(24歳)の“スピード出世”がやっぱりスゴい
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byJIJI PRESS
posted2023/01/27 11:00
26年ぶりの日本一に貢献し、契約更改で笑顔を見せていたオリックス宇田川優希(24歳)。本人も驚きのWBC日本代表選出だった
大学4年のドラフトの際には、育成でプロ入りするか、社会人野球に進むか、迷った。「育成では行かない」という意向をドラフト前にNPB球団に伝えていたからだ。だがそこでプロ入りを選択し、今につながっている。
当時の宇田川に、2年数カ月後に日本代表に選ばれることを教えたらどんなに驚くだろう。
そう水を向けると、宇田川は言った。
「(プロに)入ってからのほうが、すごくしんどい時期が多かった。1年目は二軍でも投げられなくて、三軍の試合ばかりだったので、その時期の僕に、今の僕を見せたら、すごく驚くと思います」
プロ1年目は、ウエスタン・リーグでわずか1試合の登板に終わっていた。
「あの時はファームでもベンチに入れなくて、『くそー!』という気持ちもあったんですけど、でも正直、ベンチから外れると、投げなくてもいいんだ、対戦しなくてもいいんだって、ホッとする気持ちもあったんです。バッターとの対戦が怖かったんで。打たれて、もう抑える自分が想像できなくて……」
身長184cm、体重100kg近い体躯で、威圧感たっぷりにマウンドに仁王立ちする今の姿からは想像できない、「バッターとの対戦が怖かった」という言葉。武器だと信じていたストレートを打たれ、ブルペンでも自分の納得のいく球が投げられず、当時は自信を失っていた。
だがもともと力のあった右腕は、いくつかのきっかけを足がかりに、変貌を遂げていく。
転機となった“甲子園のマウンド”
2年目に向けてはフォームを修正し、何より大きかったのは肉体改造だったという。昨年3月に新型コロナウイルスに感染し、隔離期間に体重や筋肉量が落ちたことをきっかけに、ウエイトトレーニングを増やし一から体づくりに取り組んだ。それが功を奏し、ストレートの威力が増した。以前は152キロほどだった球速は、常時150キロ台中盤が出るようになり、打者を抑えられるようになると、嫌なイメージが払拭されていった。
転機となったのは、7月2日に甲子園で行われたウエスタン・リーグ阪神戦だった。
高校時代、憧れ、目指したけれど立てなかった甲子園のマウンドに、初めて上がると、それまでの試合では感じたことのない気持ちの昂りがあった。