「でもこの間、子供たちに“甲子園に行きたい人”と聞いたらだれも手を上げなかった。これはこれでショックでした。“甲子園に行くためにどこどこの高校に行きたい”とも思っていない。“今どきの子供はこんな感じなのかな”と思ったけれど。それに加えて“俺がチームを引っ張ってやる”という子もいない。リーダーシップをとれる子がいない。それじゃ高校で投手をやるのは無理だな、とも感じます。

　そういうことも子供たちに伝えていかないと、じゃないと高校で野球をやって苦労することもわかってほしいですね」

一場ほど「野球で辛酸をなめた」野球人はいないからこそ

　順風満帆の野球人生を送った野球人で、引退後、指導者としても素晴らしい手腕を発揮している人もいる。

　しかし一場靖弘のように、過去に例がないほど、野球で辛酸をなめた野球人はほとんどいない。それでも彼は、「野球が好き」「野球をやりたい」という気持ちを持っている。

「野球離れ」が叫ばれて久しいが、勝つことばかりを求めてきた日本野球において「負けること」「挫折すること」、そこから「立ち直ること」を知る一場靖弘は、こんな時代にふさわしい名指導者になり得る。

　一場靖弘の労苦は、これから報われる時が来るのではないだろうか。

＜#3「加藤幹典編」につづく＞

#3に続く

〈あのドラ1の今〉偏差値トップ進学校→慶大屈指の左腕→ヤクルトで肩痛27歳引退も…「妻と出会って」加藤幹典が戦いきれた理由