酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「野村監督は環境を変えた方がいい、と」ヤクルト移籍→戦力外から10年、一場靖弘が子供に野球を教える理由「野球がうまくても…」
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKou Hiroo
posted2023/01/07 11:02
40歳となった一場靖弘。プロ野球人生と現在について語ってくれた
戦力外通告を受けてから12球団合同トライアウトを受けたが「全然ボールが走っていなかったから」オファーはなかった。引退後の一場は高校の同級生がいる会社で働きながら、声がかかると野球教室で指導もした。また保険会社に就職したり、夫人が埼玉で経営しているネイルサロンの経営面を手伝ったりもした。
「いろんな職に就きながらも考えていたのは、野球がやりたい、野球の楽しさを教えたいと言うことです。いろんな仕事を経験して、いろんな引き出しを持とうと思っていました。それまでは野球しかやってこなかったけど、辞めてからは多くの経験をしたことで、自分としてはステップアップしたと思っています。
世間からは“仕事ばっかり変えて”と相変わらず叩かれましたけど、気にしてもしょうがないと思っています。今では、おかげさまでなんでもできますよ。営業もパソコンもできるし、イラストレーターもできますよ(笑)」
ヤクルトの元ドラ1加藤幹典からの誘いを受けたワケ
自身でも野球教室をしていた時期もあるが、現在はヤクルト時代の同僚だった加藤幹典に誘われて、東京インディペンデンツで中学生たちを指導している。
「加藤からは“今、生徒が増えてきているので、力を貸してくれませんか”と言われたんです。中途半端な気持ちで野球を教えるのはどうかと思いましたが、きっかけがあるならやってみようと思いました。東京インディペンデンツは、ユニークな考え方を持っていますし、野球ができる環境も整えています。
しっかり言えばみんな聞いてくれるし、粗削りだけど色々な子がいて楽しいですね。
このチームは軟式野球もやっていますが、両方やるのは悪くないと思います。僕も軟式上がりだったこともあって、中学時代は軟式をやっていた方が、そのあと伸びると思っています。選手たちには優しく接していますが、空気を乱すようなときははっきり言います。往々にして、そういうときに怪我をしますので。
指導して思うのは……今は力任せに投げる子が多くて、股関節とかがめちゃくちゃ固いですね。だから足回りに重点を置いて、使い方の指導をしています。股関節が柔軟にならないと、いかに平地で投げられても、マウンドでは投げられない。力任せに投げて上体が突っ込んでしまっている。マウンドの傾斜を意識して、しっかり股関節を使って投げられるように指導しています。
子供たちには“高校、大学、社会人とずっと野球を続けてほしい”。それを助けるのが僕の夢ですね。好きで始めたのに、僕は途中から野球をやるのが苦しくなった。野球がうまくても、つまんないと何も楽しめないですから」
その願いは、一場靖弘ならではの感慨だと思う。