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大谷翔平は「高校生レベル」と酷評、野茂英雄も「金の亡者」と中傷されたが…メジャーリーグ1年目、2人のパイオニアはいかに逆境を越えたのか?
posted2022/12/31 17:02
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph by
Nanae Suzuki/BUNGEISHUNJU
英国人大女優オードリー・ヘプバーンは、生前に多くの言葉を残したことで知られている。そのひとつに目がとまった。
「Nothing is impossible, the word itself says ‘I’m possible’!」
(不可能なことなどないわ。その言葉自身が「私にはできる」と言っている)
1929年にベルギーで生まれ、ハリウッド女優として活躍したヘプバーンは「ローマの休日」や「ティファニーで朝食を」などの代表作で知られる。幼少時代に苦労を重ねながらも大女優にのぼり詰め、晩年は慈善活動にも力を尽くした。93年に63歳の若さで他界したが、彼女の人生観を推しはかる中で印象的な言葉と感じる。
impossible(不可能)というネガティブな言葉をI’m possible(私にはできる)と受け止めることのできる感性。野球界にも不可能を可能に変えてきた選手が多くいることを重ね合わせた。
野茂英雄は誹謗中傷にも負けなかった
95年にNPBからMLBへと移籍し、大成功を収めた野茂英雄。彼の志を初めて聞いたのは94年のことだった。NPBのトップ選手がMLBでのプレーを口に出すことなど許されなかった時代に彼は夢を求め動き出そうとしていた。愚生は内心で「許されるわけがないだろう」とも思ったが、彼の意思は強かった。
想像通り、アゲンストの風はとてつもなく強かった。球界のみならず、一部メディアからも「契約違反」、「金の亡者」、「わがまま」と大きな批判を浴びた。誹謗中傷は後を絶たず、道を閉ざそうとする動きもあったが、彼は前を向き、夢をあきらめなかった。NPBの統一契約書で選手に唯一残されている権利である「任意引退」を手にし、海を渡ったのだった。
メジャー移籍後の大活躍は語るに及ばないだろう。彼は夢を叶えた。以前からコラム等で伝えてきたが、後へと続く後輩のために、結果を残す前から彼が口にしてきた言葉がある。
「僕は失敗するわけにはいかんのです。僕が失敗すれば(後に続く日本人選手に)ダメの烙印が押される」
先駆者としての決意と覚悟。加えて自分を信じることのできる強さ。「impossible」から「I’m possible」へ。冒頭のヘプバーンの言葉と重なった。