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井上尚弥は「とてつもないボクサーでした」完敗を喫した銀行員ボクサーの証言「リングを降りる時に感じたのは…」〈4団体統一王者の予兆〉
posted2022/12/14 17:15
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph by
Getty Images
今ではアメリカのファンの間でも名が通った井上だが、まだ無名の“YouTubeセンセーション”だった頃、初の渡米戦の相手を務めたのがアントニオ・ニエベス(アメリカ)だった。
2017年9月9日、当時スタブハブ・センター(現ディグニティ・ヘルス・スポーツ・パーク)と呼ばれていたカリフォルニア州カーソンの屋外会場で、WBO世界スーパーフライ級王座を保持していた井上と相対した。すでにバンタム級で実績を積んでいたニエベスは、対戦オファーを受け取った際のことを「井上は連続KOを続けていましたが、1つ下の階級でのこと。私の方がサイズでは勝っていて、彼のパワーがどれだけのものか試してやろうと思っていた」と5年前の記憶を紐解いた。
しかし、リングに立つと、井上の現実離れした力量を思い知らされることになった。
「ボクシングIQが本当に高かった」
「井上はとてつもないボクサーでした。パワーは飛び抜けており、すべてのパンチが強打で軽いパンチは1発もありませんでした。ジャブの上手さは自分が戦ってきた階級では段違いでした。フィジカル面も強く、本当に何でもできる選手でした」
レベルの違うパワー、スピード、スキルに仰天したニエベスは、すぐに袋小路に追い込まれていく。5回にボディブローでダウンを奪われ、6回終了時にコーナーの指示を受けて棄権。その時点でプロでも20戦のキャリアがありながら、何のアジャストメントも施せなかった。これほどの完敗を喫した要因として、ニエベスは井上の聡明さを挙げる。
「リング上でこちらが何をやろうとしても、井上は常に準備ができていました。最適の立ち位置を理解しており、こちらにとって近すぎるか、遠すぎるか、そのどちらかの位置に常にいるんです。距離の取り方を熟知していましたね。ボクシングIQが本当に高かったと思います」