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異例のケガ公表も…平本蓮の“番狂わせ”はなぜ起きた? RIZIN弥益戦で見えた悪童の“とてつもない可能性”「UFC王者になります」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2022/11/09 17:01
弥益ドミネーター聡志からダウンを奪う瞬間の平本蓮
この試合で見せたファイトスタイルを、平本は「ストライカーの塩漬け」と表現している。塩漬けとは、グラップラーがテイクダウンし、ガッチリと抑え込んで動かさない闘いのことだ。相手は漬物石に潰されたような状態になる。
「グラップラーはグラウンドで密着して相手をコントロールする。ストライカーは距離のコントロールですね」
「強いレスラーが何回もテイクダウンして“これはもう無理、立てない”と思わせる。その逆バージョンが作れたと思います」
グラップラーは抑え込んで相手を封じる。ストライカーは距離をコントロールして相手を封じる。打撃には痛みがあり、恐怖心がつきまとうから「恐怖心をコントロールするのがストライカーの塩漬け」だと平本。武道、武術的なスタイルでもあるという。これだけ説明できるということは“結果、こうなった”のではなく、確信を持って闘い、勝ったということだ。
塩漬けの「塩」は、業界で使われる「しょっぱい」という言葉からきたものだろう。試合が地味でつまらないという意味だ。確かにこの試合には“アグレッシブに攻めまくって圧巻のKO”といった魅力はなかった。しかし「塩」だからこそ格上の相手に勝つことができたとも言える。忘れてはいけない、これは1勝2敗のルーキーが番狂わせを起こすための闘いだったのだ。
この勝利でようやく五分の戦績。いずれ狙ってKOすることを求められる試合もくるだろう。レベルアップのために、あえて実戦でグラウンド勝負をする時もあるかもしれない。ただ、それは今回ではなかった。
悪童の“とてつもない可能性”
「ストライカーの塩漬け」、その隙のなさこそが魅力なのだとも言える。現時点で弥益に勝ったのだ。このまま完成度を高めたらどこまで行くのか。いや本人は「UFCのチャンピオンになります」とはっきり言っているのだが。
オールラウンダーの弥益を完封することはできた。ではレスリング出身選手のような“タックル特化型”ファイターと闘った時にテイクダウンディフェンスがどうなるか。2戦目で敗れた鈴木千裕のように、打撃でも真っ向から競りかけてくる相手に対してはどうか。
平本蓮にはとてつもない可能性がある。未知数の部分もあるが、それは彼に対しての興味をかき立てる。と同時に、「どれだけ強くなっても悪童であり続けるんだろうな」とも思わせる。好き嫌いはともかく、だ。試合前の選手コール時は深々と座礼し、その上で中指を立てた。試合後、マイクを握ってのセリフはこうだ。
「僕は今まで対戦相手ではない選手を侮辱したり、巻き込んで悪態ばっかりついてきたんですけど。この場をお借りしてお詫び……するわけないでしょ! これからは平本蓮の時代です」
こんな言葉の中に、しかし「K-1リスペクト」(平本)があったりもする。「これからは平本蓮の時代です」は、2000年に行なわれたK-1中量級大会第1戦での魔裟斗の言葉「これからは俺の時代です」へのオマージュなのだ。
弥益が言った通りだ。人間・平本蓮と格闘家・平本蓮は別。それが同居する場面もあるから余計に厄介なのだけれども、少なくとも後者に関しては来年さらに本格化していくだろう。最初に苦労したからこそ、勢いだけでない“実”のある強さを築くこともできるはずだ。楽しみだ、と言うほかない。
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