フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
「自分でもクレイジーだと思う」マリニンの演技に見た“恐ろしく、素晴らしい時代”…同世代・三浦佳生「やばいという感情じゃなくて、すごいな」
posted2022/10/28 17:00
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph by
Getty Images
「あなたはフリーで、いずれ4回転を7本入れたいと言っていましたけれど」
スケートアメリカの開催前日の囲み取材で、アメリカ人の記者からそう聞かれたイリヤ・マリニンは、くすっと笑い崩れると、白い歯を見せて少しの間ケラケラと屈託なく笑った。
9月に史上初めてクリーンな4アクセルを公式試合で成功させ、「クワッドゴッド(4回転の神)」とも呼ばれるようになったマリニン。だが目の前にいるのは、ごくノーマルな、あどけなさの残るティーンエイジャーの青年である。
「自分で考えても、クレイジーだと思うんですよね……」マリニンはクスクスと笑い続けながら、そう口を開いた。それから少し真面目な表情になりこう続けた。
「それを成し遂げるには、多くの責任が伴います。まずジャンプの安定度を高めなくてはならないし、さらにジャンプだけに集中せずに、音楽表現などバランスの良い演技をしなくてはなりません。フィギュアスケートはジャンプだけではないから。まあ今後シーズンの後半に向けて、調子などを見ながら考えたいと思っています」
マリニンの母、四大陸初代チャンピオンのタチアナ・マリニナは小柄な女性で、父でコーチでもあるロマン・スコルニアコフもあまり大柄な人ではない。
だがスケート靴を履いて目の前に立っているマリニンは、昨季のモンペリエ世界選手権の時よりも一回り背が伸びたようで、公式バイオの168センチよりも大きく見える。
「あまりきちんと測ったりしていないので、今の身長がどのくらいかわからないなあ……」とマリニン。
だが一つ確かなのは、少なくとも今のところ、身体の成長が彼のジャンプ能力に影響を与えていないことである。それはこのスケートアメリカの結果を見ても、明らかだった。
SP4位の予想外のスタート
SPはユーリス・ラザグリアエフ振付で、音楽はブルース「I Put A Spell On You」。ちょっとけだるいメロディにのり、集中した表情で演技を開始したが、4トウループで転倒。86.08で4位という予想外のスタートになった。ノーミスで94.96と好調なスタートをきった1位の三浦佳生との点差は8.88だった。