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長谷部の充血した瞳、ビッグマウス本田の横顔、聖地ブラジルで日本代表の「魔法がとけた日」 

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近藤篤

近藤篤Atsushi Kondo

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posted2022/11/07 11:00

長谷部の充血した瞳、ビッグマウス本田の横顔、聖地ブラジルで日本代表の「魔法がとけた日」<Number Web> photograph by Atsushi Kondo

ブラジルW杯でキャプテンとしてチームを鼓舞し続けながらも1分2敗のグループ最下位に終わり、目に涙を浮かべる長谷部

 しかしザッケローニはそうではない道を選択し、4年という時間をかけて面白いチームを作り上げた。本田圭佑というビッグマウスを旗頭として、両サイドバックには内田篤人と長友佑都、中盤には長谷部誠、遠藤保仁、香川真司、清武弘嗣、前線には岡崎慎司、大久保嘉人、大迫勇也、柿谷曜一朗。日本サッカーの新しい才能がぎっしりと詰まったチームが描くサクセスストーリーを現場で撮ってみたかった。

 日本代表のことから先に話そう。

 サッカーの世界ではものごとは往々にして、願っている、あるいは予想しているのとは反対の方向へとながれてゆく。

黄金世代の旅の終わり

 雨のレシーフェでの第一戦、相手はコートジボワールだった。相手チームのエース、ディディエ・ドログバはベンチからスタートした。日本は前半、本田の見事なシュートで先制するが、時間の経過と共に徐々に押し込まれる時間がふえてゆく。そして後半、コートジボワールがドログバを交代で投入した瞬間から、ピッチの上の空気感ががらりとかわり、そこから日本は立て続けに2失点し、1−2で大事な初戦を落としてしまった。

 5日後、日本代表はレシーフェと同じくブラジル東北部の海岸線に位置するナタールの街で、ギリシア代表と対戦した。実力的にはほぼ互角、堅守速攻に徹する相手を日本のポゼッションサッカーが圧倒できれば、予選リーグ突破の道はまだ残るはずだった。

 前半38分、ギリシアは中盤の守備の要カツラニスを2枚目のイエローカードで早くも失ってしまう。一人少ないギリシアに猛然と襲いかかる日本。しかしながら、試合終了までに残された60分近くの時間を、日本はうまく使えなかった。何度もチャンスを作るものの、結局決めきれず試合は0−0で終了。ピッチ上でしゃがみこむ選手たちを覆う失望感は、日本代表の旅はほぼここで終わったことを告げているように見えた。

 そこからさらに5日後、ミナス州のベロオリゾンチ経由で内陸部の都市クイアバに入った日本は、前の試合から先発を8人変えてきたコロンビアに1−4で敗れる。前半はなんとか食い下がったものの、後半に相手のスーパーエース、ハメス・ロドリゲスが登場すると、再び第一戦のドログバ登場のときと同じように、まるで魔法にかかったか、あるいは魔法が解けたかのように、日本代表の守備は崩れ去った。

 1分2敗、それがサムライブルーの残した数字だった。そしてその数字がこの4年間ずっと追い求めてきたものとどれだけ違うのか、試合終了後、キャプテンとしてチームを鼓舞し続けてきた長谷部誠の瞳に浮かんだ涙は物語っていた。ぐっと目を閉じたままの本田圭佑の横顔をファインダー越しに眺めていると、こちらの心臓まで痛くなった。

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