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<ドラフト5位→阪神のエース>青柳晃洋を大成させた金本監督の“目をつぶる勇気”「コントロールが悪いとか、そういうのは無視していい」
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佐井陽介(日刊スポーツ)Yosuke Sai
photograph byJIJI PRESS
posted2022/10/19 17:00
CSでも2度登板。DeNAとの第1ステージではDeNAのエース今永に投げ勝ち、合計12回2/3を投げて4失点も自責点は0
コントロールが悪いとか、そういうのは無視していい
背番号18を託したドラフト1位の二神一人は3月中旬に左脇腹を負傷。2位の藤原正典に至っては、2月の一軍キャンプ中にはもう左足を痛めていた。1年目から開幕ローテ入りを期待される中、知らず知らずのうちに無理をさせてしまった末の故障。この春の反省も以降の若手育成プランに影響を与えたのだと、佐野は振り返る。
「担当スカウトは選手の悩みまでケアしよう。現場とスカウトはもっと密に話し合おう。そういう意識が強くなったんです」
土台から再構築に入った球団は2015年秋、かつて猛練習で頂点まで上り詰めた「鉄人」にタクトを託す。「1回壊してでも立て直す」――。ベテラン、助っ人頼みのメンバー構成を改善すべく、フロント、現場、スカウトは三位一体となって走りだした。
「将来的にエース、クリーンアップ、盗塁王を狙えるような選手を取りたい。コントロールが悪いとか、変化球を打てないとか、そういうのは無視していい」
これは就任直後の金本監督が示した新たな指針だ。
短所に目をつぶってでも、長所の秀でた選手を。方針がより明確化された2015年10月下旬、制球難を把握した上で獲得した投手が青柳だった。
タイガースは速いボールに弱い
さらに1年後の2016年秋、阪神はサプライズ指名でドラフト会場をどよめかせる。
「1位指名、大山悠輔、白鴎大」
大方の予想はともに右腕の創価大・田中正義か桜美林大・佐々木千隼だった。では他球団との指名かぶりを避けたのかと問われれば、佐野は迷わず首を横に振る。
金本監督が初めてドラフト戦略に1年間携わった2016年、佐野は指揮官と意見を突き合わせる中である要望を受けていた。
「タイガースは速いボールに弱い。速球に強い選手を探してくれませんか?」
この年からセ・リーグを3連覇する広島打線と比較しての提案。名伯楽が真っ先に高評価したのが他ならぬ大山だった。
「第一印象がすごくてね。創価大との練習試合で田中くんの150kmを超える直球を簡単にセンターに返したもんだから……」
ドラフト当日、朝の会議で「田中か佐々木か大山か」の結論は出た。「言い出しっぺ」は指揮官。佐野が、球団幹部がうなずく。こうして、2021年の首位快走を支える虎の4番は誕生の日を迎えた。