濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「いつも花の写真やLINEを見て…」米国で奮闘中の女子レスラー・ジャングル叫女は“親友・木村花のいない時間”をいかに吹っ切ったのか
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by本人提供
posted2022/09/23 11:04
現在はフリーとしてアメリカを拠点に活動しているプロレスラーのジャングル叫女
「もう自分が知っているスターダムではないのかな…」
アメリカでの現役復帰は、慣れ親しんだ会社を休業してのものになる。以前からアメリカやヨーロッパの団体からオファーがあり、叫女自身も海外進出が夢だった。スターダムのジャングル叫女ではなく、いちフリー選手としてのリスタート。後ろ盾がない怖さもあるが、だからこそチャレンジ精神を刺激される。
おそらく、誰もが「なぜスターダムをやめたのか」と疑問に思うことだろう。ブシロード傘下となったスターダムはコロナ禍でも大成長を遂げ、女子プロレス業界の頭抜けたトップに。今では毎月のようにビッグマッチが開催されている。叫女の欠場中に日本武道館大会もあった。
叫女にも、レスラーとして生まれ育ったスターダムへの愛着がある。これまでのキャリアで印象に残る試合について聞くと「たくさんありすぎて数えきれないくらいです」と答えた。とはいえ決して楽しいことばかりではなかった。シングルのベルトを巻くことはできなかったし、勝った試合で相手の強さを思い知らされたこともある。
「松本浩代さんと組んでタッグのベルトを巻いた試合は、宝城カイリさんと美闘陽子さんがチャンピオンチームでした。2人とも信じられないくらい怖かった(笑)。結果としては自分たちが勝ったんですけど、潰されるんじゃないかっていう内容で。でもその試合で、怖さも含めて“プロレスってこういうものだよな”って。タイトルマッチや地元の名古屋での試合は、勝っても負けても泣いてたような気がします」
愛してやまないスターダムだが、自分が欠場している間に変わっていくのも感じた。外部から何人も選手が加わり、大所帯になっていく。その一方で自分はリングに上がることができない。その精神的なギャップを、なかなか埋めることができなかった。
「もう自分が知っているスターダムではないのかな……という感覚はありました。会社として大きくなって、自分とは考えが違うんだなと思うこともありましたし」
過ごしてきた “木村花のいない時間”
欠場に入る前の段階で、叫女の人生にとてつもなく大きな、そして哀しい出来事があった。2020年5月23日、木村花が亡くなったのだ。SNSから異変を感じ、花の部屋に向かったのが叫女だった。花と叫女はユニット「TOKYO CYBER SQUAD(TCS)」を組み、プライベートでも親友だった。叫女はリングから離れ、同時に“木村花のいない時間”を過ごしてきた。
「2年間、大好きなプロレスができなくて、復帰をあきらめそうになったこともあります。だから、リングに上がる時の相手は誰でもいいというわけではなかった」
ヒザの調子がよくなって、復帰を目指してのエキシビションマッチを行なったのは今年5月23日。後楽園ホールでの木村花メモリアル大会だった。叫女が対戦相手に指名したのは、花の母親で元レスラーの木村響子だ。