濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
現代の格闘界を予見?『ロッキー』シリーズはなぜ不滅なのか…好きすぎて“ロッキー化した”選手も「自分の試合を映画に寄せました」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by2021 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.
posted2022/08/19 11:01
多くのファイターに影響を与え続けてきたロッキーシリーズ。『ロッキーVSドラゴ:ROCKY IV』は8月19日より公開となる
「今日のお前、ロッキーみたいだったな」
本名の川村亮からロッキー川村にリングネームを変えたのは16年だ。総合だけでなくプロレスのリングにも上がるようになっていた川村は、デビュー10周年記念試合で鈴木みのると対戦。試合後に「今日のお前、ロッキーみたいだったな」という言葉をもらった。
「それが“お前、もしかしてロッキーなんじゃないの?”になり、最後は“もうロッキーになっちゃえば?”と。鈴木さんの言葉を聞いてハッとしましたね。あ、それアリなんだ、やっていいんだって。パンクラスのチャンピオンだったのは過去の栄光。そこに固執していた自分には(ロッキーシリーズの登場人物)ポーリーの“過去はゴミだ”という台詞が突き刺さってました。プロレスで何を見せていくのか、当時は迷いがあったと思います。そういう時に、鈴木さんの言葉で吹っ切れました」
かくしてプロレスの試合でもボクシンググローブを着け、技はパンチしか使わないロッキー川村が誕生した。ランニングでは劇中のロッキーのようにコンバースを履き、妻をエイドリアンと呼ぶ。もはや「川村亮」と呼ばれるとむずがゆい感じがするという。
ロッキーとしてパンクラスで2階級制覇も達成。その後なぜかランボー川村、ランボー川村2怒りのアフガン、川村浩探検隊と改名を重ね、いったんは川村亮に戻し、昨年8月の鈴木戦を終えるとロッキー川村2に。いずれ3、4、5と進むのかもしれない。シリーズのタイトルからすると「川村・ザ・ファイナル」もあるのか。「ロッキーVSドラゴ川村」はさすがに無理があるが、映画は必ず見に行きたいという。21日に富士通スタジアム川崎(旧川崎球場)でのビッグマッチ、先輩・佐藤光留の自主興行『ファイト~闘う変態達の唄』があるから、それが終わってからになるだろう。今回のインタビューではネタバレなしの話しかできなかったが、見た後であらためてロッキー話がしたい。いくらでも語れると思う。
スタローンが“30年以上”を経て描きたかったもの
というのは、8月19日公開の『ロッキーVSドラゴ』は単なる再編集版ではないからだ。上映時間94分に対し、新たに追加された未公開シーンが42分。筆者は試写で一足先に見たのだが、とにかく驚いた。「こんなシーン撮ってたのか!」という場面が次々と出てくる。冒頭、『ロッキー3』を振り返るところから編集が違う。ロッキーとアポロの絆をより印象付けるためだろう。そのことでアポロの死とベルトを返上してまでドラゴと闘うロッキーの心情が際立つ。ほとんど新作と言ってもいい『ロッキーVSドラゴ』について、スタローンはこう語っている。
「ドラマの中身に重点を置きたかったんだ。登場人物の心に注目して、より感情的に、より責任感を持って。何故このシーンを使っていない? 当時の俺は何を考えていたんだ? って凹むこともあった。今考えると使うべきシーンは明確だから。当時の自分の人生観に疑問を持ったよ(笑)。前の『ロッキー4』を作った頃の俺は、今よりかなり薄っぺらだったんだ。今回、新たに『ロッキーVSドラゴ』として生まれ変わった。タイムマシンに乗るようなこのチャンスを得たことに感謝している。オリジナルが作られてから35年の間に、僕はたくさんのことを経験し、生きてきた。僕は変わったし、映画も変わった。そして、この作品は『ロッキー』に関わった全ての人に敬意を示している」