珠玉の1敗BACK NUMBER
大野将平――五輪連覇の原動力となった必然の完敗。
posted2022/08/19 07:00
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
KYODO
第一線で活躍するアスリートは、敗戦から何を学ぶのか――。男子73kg級で五輪連覇を達成した稀代の柔道家が挙げたのは東京大会の3年前、中高時代の先輩に喫した完敗だった。
【Defeated Game】
2018年4月7日 全日本選抜柔道体重別選手権
男子73kg級準決勝 海老沼匡○ 合わせ技 ×大野将平
◇
絶対的かつ圧倒的、最強かつ最高、それが大野将平の柔道である。組んでも、受けても、仕掛けても、長丁場でも一点の死角すら漂わせることを許さない。リオに続き男子73kg級2連覇を達成した東京オリンピックにおいて、心憎いまでに無類にして無敵の強さを見せつけたことは記憶に新しい。
敗北を寄せつける隙すら与えない彼にも「珠玉の1敗」はある。リオから1年8カ月後の2018年4月に福岡で行なわれた全日本選抜体重別選手権準決勝。相手は講道学舎時代の先輩であり、ロンドン、リオと2大会連続で銅メダルを獲得した66kg級から階級を上げてきた海老沼匡だ。
「オリンピックチャンピオンになって実質初めての負けでしたし、何より中高一緒に過ごした海老沼先輩にケツを叩かれたような感覚がありました。抜群のタイミング、抜群の相手……私にとって必要な負けでした」
今の彼からは想像もできないような完敗。積極的に攻めてくる海老沼にペースを握られたままで試合は進み、内股で技ありを一つばかりか二つ食らってしまうのだから。無差別級の試合や棄権以外での敗戦は3年ぶりという事実もさることながら、なすすべないままに畳を降りるしかなかったことが衝撃を走らせた。