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ラウダ、プロスト、アロンソ、ベッテル…数多の名ドライバーが食らわされた、フェラーリの“やらかし”と内紛の黒歴史
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2022/08/16 11:00
現役ドライバーとしてフェラーリの“やらかし”被害に遭っているルクレール。黄金時代の再来を誰より熱望しているのは彼かもしれない
2010年と12年に最終戦までチャンピオンシップ争いを行ったものの、タイトルを逃していたアロンソとフェラーリ。14年はF1に「パワーユニット」と呼ばれるハイブリッド技術が導入され、勢力図が大きく変わり、フェラーリは93年以来の未勝利シーズンとなる大不振の年となった。チームの混乱は開幕直後から始まった。チーム代表のステファノ・ドメニカリが成績不振の責任をとって辞任すると、車体部門とエンジン部門による責任のなすりつけ合いが始まり、その結果エンジン部門トップのルカ・マルモリーニがシーズン途中に解雇された。
その後も復調の兆しが見えず、ついにはフィアットクライスラーグループ会長のセルジオ・マルキオンネが、フェラーリ部門の会長の座にいたルカ・モンテゼモーロを事実上、更迭。この混乱を間近で見ていたアロンソは、長期契約を残していたものの、その年限りでチームを去った。
そのアロンソと入れ替わるようにフェラーリ入りしたベッテルも例外ではなかった。5度目のチャンピオンを目指してフェラーリに来たベッテルだったが、結局一度もタイトルを獲得することなく、5年後に跳ね馬を去った。それは本人の希望ではなく、チームの内紛によって前年から新しくチーム代表となったマティア・ビノットからの「これ以上契約を継続する意思はない」という電話がきっかけだった。
そして、いまそのビノット自身が今シーズン前半戦の成績不振によって、批判の矢面に立たされている。歴史は繰り返されるのか?
シューマッハが築いた黄金時代
幾度となく内紛が起きてきたフェラーリの歴史の中で、近年唯一、同じ過ちを繰り返さなかった時代がある。ミハエル・シューマッハがいた2000年代前半だ。
この時期のフェラーリはシューマッハだけでなく、ロス・ブラウンやロリー・バーンといった優秀なエンジニアが集まり、スーパースター軍団と呼ばれていたが、それだけが勝因ではなかった。チーム代表のジャン・トッドがまとめ役としてスーパースター軍団を率いていたことが重要だった。
トッドはチーム内が不穏な雰囲気に包まれるとすぐにミーティングを行い、問題点を整理して、常にチームを改善していた。またフェラーリ上層部たちからの雑音を自らが吸収し、現場でレースをするスタッフたちに極力プレッシャーを感じさせない努力も怠らなかった。
このトッドの統率力と包容力があったからこそ、フェラーリは2000年から5年連続でダブルチャンピオンに輝くという黄金時代を築くことができた。
だが、甘美な思い出も遥か彼方。強いフェラーリの復活を皆が待っている。
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