そしていきなり初球をライトスタンドへ運んだ。読み勝ちである。

　試合を決める3打席連続本塁打は、四球の気配が濃厚ながら、7番手の石井大智が投じたカウント2―0からの抜けたカーブを強振、強烈なスピンをかけると、打球は浜風に乗ってレフトスタンドへ飛び込んだ。

　1日空いてのドラゴンズ戦は、柳裕也から最初の打席ではカーブを豪快に飛ばし、2打席目は外角の半速球を右手一本で左中間へと運んだ。

　読みとパワー。

　高校を卒業してからプロ5年目、村上宗隆はとてつもない高みに到達しようとしている。

秀岳館相手に2度涙を飲んだ

　本当なら、高校時代にも甲子園のスタンドへアーチを架けていてもおかしくはなかったが、当時の熊本には中学野球のエリートが集う秀岳館がいた。結果的に、村上が夏の甲子園に出場したのは2015年の一度だけで、2年の夏、3年の夏と熊本県大会決勝で秀岳館相手に涙を飲んだ。

　甲子園に出場し、どんどんホームランを放っていたとしたら――。同期にあたる早稲田実業の清宮幸太郎とドラフトでの人気を二分していたのではないか？

　村上は外れ1位だったが、最初の段階で重複指名を受け、ひょっとしたら、スワローズのユニフォームを着ることはなかったかもしれない。

　それもまた、人生である。

　いま、坂井前監督は村上をはじめ、タイガースの島田海吏、ベイスターズの伊勢大夢、ドラゴンズの溝脇隼人、バファローズの小田裕也ら、九州学院出身のプロ選手たちのプレーを見るのを楽しみにしている。

　教え子のなかで出世頭である村上の現在のプレーは、坂井にはどのように映っているだろうか。

「そやね……打撃はもちろんのこと、三塁の守備が上手になったもんね。年々、上達しているのが分かる。それはきっと、スワローズの教え方が素晴らしいのと、ムネには目上の人の言葉を素直に受け入れる気質があるからじゃろうねえ。両方揃って、あの守備がある。ムネをそういう人間に育てたのは、村上家のご両親の力ですよ」

　それにプラスして、九州学院の教えもあるのでは？

「そうね……ちょっとあるね（笑）」

　坂井の勇退後、現在の九州学院は平井誠也が監督として指導に当たっている。

　そして今年、九州学院は2015年以来、7年ぶりに甲子園の土を踏む。

　4番を打つのは、村上宗隆の弟、村上慶太だ。

今夏、7年ぶりの甲子園に出場する九州学院。4番を打つのは村上宗隆の弟・村上慶太　©Sankei Shimbun