バレーボールPRESSBACK NUMBER
あのロンドン五輪から10年、木村沙織はいま何してる? カフェでカヌレとスコーンを焼いている人、近所の公園で小学生姉妹と「パス50回やろうよ」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byShigeki Yamamoto
posted2022/07/25 11:02
現在は夫とともにカフェを営む木村沙織。現役時代とはまるで異なる生活だが、今を楽しんでいる
「やろうと思えば、いつまででも練習できるじゃないですか。突き詰めようとして、時間さえつくればいくらでも練習できるし、完成した時は嬉しい。唯一違うのは、勝ち負けがないことぐらいかな。だから今は、とにかく丁寧に、心を込めて毎日つくる。それだけを意識して、毎日お菓子を焼いています」
振り返れば、常に選択の基準は「好き」であることだった。
小学2年生から始めたバレーボールも、人間関係が嫌になったことはあったが、バレーボール自体を嫌だと思ったことはない。日本代表、Vリーグ、トルコリーグとさまざまな経験を重ねる中で、自身のスランプや主将としての重圧に苦しみ「自分がいないほうがいいのではないか」と取材のたびに涙することもあったが、それでも「バレーボールが大好き」な根っこの思いは変わることはない。引退してから5年が過ぎた今も同じだ。
カフェの休業日と重なる日に試合があれば会場へ足を運び、観客と一体となり、音楽に合わせて身体を揺らし、1つ1つのプレーに「すごい!すごい!」と手を叩く。ネーションズリーグでは解説を務めたが、「へ〜」と相槌を打ったり、「うわ〜」と感嘆の声を上げる自然体ぶりが実に木村らしかった。それを伝えると、眉間にしわを寄せ、苦笑いを浮かべながら、小さい声でつぶやく。
「本当は解説、やりたくないんです」
単に人の前に出るのが苦手だから、ということではなく、そこには理由もある。
実は“天然キャラ”じゃない?
「せっかく試合が面白いのに、私みたいにバレーボールのことをちゃんと話せない人が解説者だったら視聴者の方は『今日の解説は大丈夫か?』って気になって、試合に集中できなくなっちゃうじゃないですか。ちゃんと解説できる人はたくさんいるので、自分はそういう(楽しむ)方向で行きたいと思います。あ、でもそんなこと言っちゃダメか(笑)」
現役時代のインタビューやメディア対応だけを見れば、“天然キャラ”と勘違いする人もいる。だが、それはあくまでも氷山の一角。
たとえばその質問が特定の選手に対する評価を問うものであれば、褒めるのは簡単でも別の選手が活字として見れば傷つくかもしれない。そこまで考えて「えーっと」とか「質問なんでしたっけ?」とはぐらかしてきた。
それが木村沙織という人だった。