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ジャイアント白田「大食いはボクシング。殴り合いなんです」ガチすぎるフードファイターが大食いを諦めた日「もう僕の時代じゃないなと」
posted2022/07/27 11:01
text by
荘司結有Yu Shoji
photograph by
Shiro Miyake
全盛期には約10キロのカレーや70個近くのショートケーキをたいらげ、現役時代に稼いだ賞金額は5000万円以上にのぼる。大食いの猛者たちを次々となぎ倒し「大食い大魔神」と恐れられたレジェンドの出発点は、近所の回転寿司屋だった。
大学時代、友人に誘われて「1時間以内に50皿食べたら賞金1万円」というチャレンジデー企画に参加。中学生の頃から40皿を平らげていた白田にとって、この挑戦は赤子の手をひねるようなものだった。
「案の定、50皿なんて20分ちょっとで食べきっちゃいました。職人さんも焦ったのか、途中から明らかにシャリがデカくなっていくんですよ。友達は意気消沈してリタイアしましたけど、僕はまあちょっと苦しいかなぐらいで余裕でクリアして。お寿司を食べられて、お金までもらえて、これはすごいいいバイト見つけたぞと思いましたね」
TVスタッフの間で広まった「白田」の名前
その後は大食いメニューの挑戦企画を掲げる飲食店を片っ端から渡り歩き、賞金を稼ぐ“道場破り”に明け暮れた。大食い大会に出場するホープを探すテレビ局スタッフにも白田の名が知られるようになり、「TVチャンピオン 全国大食い選手権」への出演が決まった。大学4年生に進級した2001年4月のことだ。
「予選で初めて寿司の限界に挑んで、85皿でぶっちぎり1位だったんですよね。ああこれは優勝もらったぞと思いましたけど、本選は一日3試合だったんです。
朝の1回戦は餃子を2キロたいらげて、昼の2回戦は温泉卵を80個以上食べたかな。もう信じられないくらいキツいし、めっちゃ気持ち悪いし、まったくお腹が減らないんですよね。
3回戦なんて夜中の1時ですよ、カツ丼10杯近く食べて。ギリギリ決勝に滑り込みましたけど、人生で経験したことないくらいのお腹の張りと気持ち悪さを感じて、スタッフさんに『決勝は無理だから辞退したい』と伝えたんです」
「あの時アスリート的な気持ちが芽生えた」
運営スタッフから「ここまで来たのは君の実力だから参加してほしい」と懇願され、嫌々臨んだ翌日の決勝戦。21歳の白田は大食いの“ゾーン状態”を経験することになる。
「もうコンディション最悪ですわ。でも、いざ食べ始めてみると胃がバグったのか、食べても食べてもお腹の感覚が変わらない。『これちょっと頑張ってみようかな』って途中からペースを上げたけど、わずかな差で負けちゃいましたね。でもこの時に、自分の日本一を狙える才能に出会っちゃって。自分なりに胃を広げて試合に臨めば日本一になれるかもしれないって思えたことから、アスリート的な気持ちが芽生えていきました」
この日を境に、白田にとって大食いが“アルバイト”から“生業”へと変わっていく。胃の限界まで食べ物と水を詰め込んで拡張させる、自己流のトレーニングを積み重ね、デビュー戦から5カ月後に放送された「TVチャンピオン」では見事ジャイアントキリングを成し遂げる。TBSの「フードバトルクラブ」でも猛者たちを打ち破り、優勝とともに賞金1000万円を手にした。