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オリンピックPRESSBACK NUMBER
「少年院は引退後の夢を叶えてくれた場所」元”スーパー女子高生”小林祐梨子が後悔する現役時代「”できません”のたった5文字が言えなかった」
text by
荘司結有Yu Shoji
photograph byYu Shoji
posted2022/07/21 17:02
兵庫県加古川市にある播磨学園で教壇に立つ小林。”スーパー女子高生”は教師になっていた
「数字で明確に表せるものが好きなんですよね。だから私のなかでは陸上も数学も一緒なんです。小さい頃から算数は得意だったので、もう一つの将来の夢は数学の先生になることでした。少年院はいわば、引退後の夢を叶えてくれた場所でもあるんです」
こうした縁があり、2016年から隔週で1回1時間の授業を受け持っている。その播磨学園には、非行の傾向が進んでいない17歳以上の少年たちが暮らし、更生に向けた矯正教育や職業訓練を経て、おおむね半年以内に仮退院を迎える。
私はヤンチャもんが好き
現在、播磨学園にいるのは約10人の少年たち。最近は特殊詐欺の受け子・出し子や大麻取締法違反、窃盗などの非行理由で入院する子どもたちが多いという。
少年院と聞くと「怖い」閉ざされた世界のように思えるが、播磨学園では外部で清掃活動を行うなど、社会との関わりを積極的に保っている。小林さんが招かれたのも、その一環だった。
「最初はめっちゃ怖かったですよ……。だって袖から入れ墨が見えてるんですもん(笑)。でも、私はヤンチャもんが好きなんですよね。実際に触れ合ってみると、感受性が豊かな子がすごく多いんです。むっちゃ笑うし、すぐ泣くし……。だからこそ、思春期に自分の感情をコントロールできなくて、あり余ったエネルギーを非行にぶつけてしまうのだと感じました」
彼らの年齢を小林さんの経歴に置き換えると、ちょうど「スーパー女子高生」として世間の耳目を集め始めた頃にあたる。これまで授業を受け持ってきたなかで、小林さんと同じようにスポーツで将来を嘱望されながらも、些細な挫折を機に、横道へとそれてしまった“アスリートの卵”たちもいたという。
「中には野球やラグビーで将来を期待されていた子たちもいました。甲子園球児や日本代表の卵になれるはずが、強豪校で挫折して伸び悩んだときに、悪い方向へと走ってしまったようなんです。少しだけ私と重なるというか……スポーツ以外の“逃げ道”を知っていたら、また違う形で立ち直れたと思うんです」
最初は「学校の先生」を演じていました
2021年版の犯罪白書によると、少年院在院者のおよそ4割が高校を中退。なかには中学校にすらほぼ通っていなかった少年たちもいる。学校の授業のように、教科書に沿って次々と単元を進めていくのは難しい。小林さんも初めは壁にぶつかった。