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井岡一翔「僕にしかできないことがある」真骨頂の“完封勝ち”で世界戦20勝に到達した名王者の「井上尚弥とも村田諒太とも違った輝き」
posted2022/07/14 17:04
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチが13日、東京・大田区総合体育館で行われ、王者の井岡一翔(志成)が指名挑戦者のドニー・ニエテス(フィリピン)を3-0判定で下して5度目の防衛に成功した。3年7カ月ぶりの再戦。ともに世界4階級制覇を成し遂げた技巧派対決は、井岡が真骨頂とも言える“完封勝ち”でリベンジをはたす結果となった。
「マカオの借り返したぞー! という感じです!」
クールな井岡が珍しく感情をあらわにした。試合後の記者会見で開口一番、声を張り上げてこう叫んだのだ。2018年大みそか、中国・マカオで行われたWBO同級王座決定戦はともに4階級制覇をかけた一戦で、結果は井岡の1-2判定負け。誇り高き井岡にとって屈辱の敗戦だっただけに、雪辱をはたした喜びは格別だった。
反省を活かし「彼が一番やりづらいプランで戦った」
この階級を代表するテクニシャン対決は予想通り玄人をうならせるハイレベルな争いとなった。33歳の井岡がジャブから圧力をかける。レジェンドの領域に足を踏み入れる40歳、ニエテスがゆったりとしたリズムで軽いパンチを出して相手を誘い、強打がきた瞬間にカウンターを狙う。もちろん井岡はそれには乗らない。マカオでの反省があるからだった。
「前回は初めての4階級制覇に挑戦ということもあって気持ちがいきすぎ、前半に距離を詰めすぎてパンチをもらってしまった。それを踏まえて彼が一番やりづらいプランで戦った」
ニエテスの誘いに乗らず、ニエテスの得意な接近戦にはつきあわない。ジャブはダブル、トリプルと連続して打った。ニエテスはジャブに右オーバーハンドを合わせるのが得意だ。2発、3発打つことによって相手のカウンターを封じる作戦だった。
上々の立ち上がりに見えたが2回、ニエテスの右カウンターが火を噴いた。しかし、これで動じる井岡ではない。「もらった、もらった、と思わないようにした。それで手を出さなくなったら相手の思うツボなので」。前回、ニエテスの技巧にはめられた井岡はこの日、確実にニエテスをはめていった。