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根尾昂18歳が言い聞かせていた“ある言葉”と夜中に掛けた一本の電話「もちろん結果は欲しい。でも、段階があると思うので…」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byKiichi Matsumoto
posted2022/07/10 17:02
1年目の3月、インタビューに応じた根尾
守備の名手は長い目で見なさいよと、こちらを諭しながら「でもね」と付け加えた。
「やっぱり練習するもん。練習できる体力、意志がある。見ていて楽しみになるよ」
読谷村のある夜のこと。荒木が自室で寝入っていると、電話が鳴った。根尾からだった。守備のことでどうしても聞きたいことがあるという。荒木は目をこすりながらグラブを持ち、外へ出た。
月あかりの下、2つの影が動き、語り、また動く。どれぐらいそうしていただろうか。その後、部屋に戻った荒木はしばらく寝付けなかったという。
「彼個人のことだから、詳しく内容は言えないけど、今は土台をつくろうとしている。この先、一軍で活躍して、何年かして壁にぶつかった時に戻ってこられるような土台をね。『一より習い十を知り、十よりかえる、もとのその一』って。千利休の言う通り! プロ野球って本当にそうなんだよ」
吉田輝星のニュースを一瞥もせず。
読谷村の逸話をもう1つ。
根尾はホテルの朝食会場にほぼ一番乗りだったというが、ある朝、会場に置いてあるテレビでスポーツニュースが流れた。『日本ハムのドラフト1位、吉田輝星選手が実戦デビューしました――』
その場にいた選手やスタッフはみんな何気なく箸を止め、テレビを見上げたのだが、根尾だけは一瞥もせず、黙々と箸をはこんでいたという。
『普通、見るでしょ。見ようとしていなくても、見ちゃうものでしょ』
その場にいたスタッフの談である。
ちなみに、中日の選手寮「昇竜館」の根尾の部屋にはテレビがないらしい。
根尾「新聞や、スポーツニュースも、ちらっとも見ないです。部屋にテレビがないですし、いつ入れようか迷っているんですけど、あっても見るのは天気予報ぐらいじゃないですか。もちろん、世の中のニュースを知っておかないといけないこともあると思うんですけど、うーん……、今の自分には必要ないかなと思うんです」
数々の逸話や、彼の言葉を「謙虚」や「真面目」で片付けてはいけない気がする。地に足のついた、周りが見える優等生というイメージの裏に、貪欲と反骨を1本、1本紡いだような太い芯がある。
<後編に続く>
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。