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大阪桐蔭・西谷監督は根尾昂をどう評価していた?「時間のかかる選手」と語った真意 他球団では“高卒ショートの長期育成”が進むが…
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKYODO
posted2022/07/06 11:03
「1人前になるのにすごく時間のかかる子」。大阪桐蔭・西谷浩一監督が語っていた“根尾昂評”とは
かつて、これほど“たらい回し”にされたドラフト1位選手はいないだろう。そう考えると、注目すべきは投手転向の是非ではなく、目まぐるしくポジションが変わっているという事実かもしれない。
高卒の遊撃手の育成は一筋縄でいかない。2006年の高校生ドラフトで、中日が坂本勇人より先に指名して3球団重複の末に獲得した堂上直倫は結局、レギュラーを掴めないままにいる。11年ドラフトで3球団競合の末に獲得した高橋周平はプロ入り後、ショートからセカンド、サードへコンバート。高校生の指名はその高いポテンシャルを示すものだが、花形の遊撃手を育てるという点については、近年の中日は迷走していると言わざるを得ない。
一方、他球団を見ると、高卒遊撃手の育成に本腰を入れていることがわかる。
根尾と同じ18年ドラフトで広島に入団し、ショートを務める小園海斗は今季、75試合に出場している(7月4日現在)。DeNAも、根尾にタイプが似た3年目・森敬斗を起用し続けている。巨人は坂本が離脱している時に2年目・中山礼都を27試合連続で起用。打撃に課題は残したが、守備面ではプロでもやれることを見せつけてファームに戻った。ヤクルトの3年目・長岡秀樹は、今季開幕からレギュラーを奪取し、全試合スタメン出場を果たしている。パ・リーグではオリックスが3年目の紅林弘太郎を昨季から起用。打撃面では苦労しているものの、将来の主軸候補として育成は着実に進んでいる。西武は育成から支配下に上がった1年目・滝澤夏央が7月4日現在もベンチ入り。FA取得が間近な源田壮亮の後釜候補として期待されている。
各球団、彼らの才能に惚れ込み、時間をかけて正遊撃手を育成しようとしているのだ。
高校時代、根尾が語っていた言葉
中日は根尾にショートで2試合の途中出場しか機会を与えず、投手転向という選択をとった。これをどう受け止めるかだろう。
唯一の救いは根尾が不満な表情を見せていないことなのかもしれない。与えられた状況でチームに貢献しようとする姿勢が見えるから、ファンは根尾を応援したくなるのだろう。
高校時代、複数ポジションをこなしマルチな役割を託されることについて、本人に尋ねたことがある。
「僕にとって、複数をこなすことは試合に出るための手段だという考え方ですね。投手も同じですね。できるところが多ければ、試合には出られるし、勝利に貢献できるので」
報道で見る限り、どのポジションを最もやりたいかについて根尾の言葉はひとつも入ってこない。それは彼が発言を拒否しているのではなく、本当にそう思っているのだろう。
チームの勝利のために試合に出る選手でありたい。野球選手であるならば、一番に大切にしたいことを根尾は守っている。その考え方は、彼が野球を始めた時から変わっていない。
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