「判定勝ちでは物足りない」というファンの感情は…

　この展開は、これまでも平本がSNSでやり合ってきた朝倉未来が予想していたものであった。鈴木は平本のテイクダウンディフェンスに消耗させられるだろう、と。ただ未来の予想はKOで、そこは違った。試合直後、未来は「打撃について過大評価しすぎた」とツイート。それをインタビュースペースで知った平本は「塩試合のお前が言うな」と返している。「天心vs.武尊が終わって、朝倉兄弟も終わって、これからは平本蓮の時代です」と勝手に朝倉兄弟を終わらせてしまったりもした。

　格闘技に対しては真摯で、客観的な分析力も持ち「明日のUFCが楽しみで」とも。一方でバッドボーイぶりも変わらない。リングアナにコールされた平本は、深々と頭を下げつつ中指を立てることも忘れなかった。「手が勝手に動いた（笑）」そうだが、平本蓮というファイターをよく表しているポーズにも見えた。

　もちろん、この試合を見て判定勝ちではもの足りないと思うのも自然な感情だ。“繰り上がり”とはいえメインなのだからなおさら。「朝倉海が出ていたらもっと盛り上がって終われたのに」と感じたファンもいたかもしれない。

打撃戦で距離が近づく場面もあったが、すぐに「リセット」した平本　©RIZIN FF

　RIZINのCEOである榊原信行は、大会後に「今日は総合格闘家としての真価が顕在化しなかった」と平本を評している。「テイクダウンを取るような展開を見せていれば“おっ”となったかもしれないですけど」と。ただそれは「あえて」かもしれないし、試合の見方に関しては「ファンやプロモーターは残酷なものですから」と付け加えてもいる。

　MMAらしさ。そこは難しいところだ。立ち技も投げ技も寝技もすべて使っていいのがMMA。しかしすべての技術を「使わなくてはいけない」というわけではない。

今後は“狙ってKO”も可能に？

　平本のような取捨選択もまた「MMAならでは」の思考だろう。考え方としては鈴木（と前回の試合の平本）が前者、平本は後者だった。そして今回は平本が勝った。正解がないというのか、あらゆる選択が“勝てば正解になる”のがMMAと言えばいいだろうか。

　大胆な発言が目立つから「言うほどじゃない」となりがちだが、基本的なスタイルとしてはMMA初期のミルコ・クロコップと近い。これが平本蓮の“最終形態”ではないことも強調しておきたい。今回は“勝ち筋”を確立した段階。平本は「これに引き出しを」と言う。ここからさまざまな肉付けをしていけば、狙ってKOすることも可能になってくるのではないか。

「これからは平本蓮の時代です」とアピール。自身のポテンシャルを信じて疑わない　©RIZIN FF

　平本自身、常に先を見ている。

「絶対にUFCチャンピオンになれると思ってるし、RIZINのチャンピオンにもなれる。俺まだ24歳ですよ。40までやるつもりなんで、あと16年あるんで」

　この初勝利は「ただの1勝だし、大事な1勝」と平本。次も3カ月以内に試合をしたいと言う。2連敗の屈辱を確実に糧にして、頭を下げるが中指を立てて。そのすべてが“平本蓮”なのだろう。

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