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全米オープン開幕前の会見でなぜ怒声が……“サービス精神あふれるナイスガイ”が残した汚点《ゴルフ界を分断する新ツアー騒動》
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph byGetty Images
posted2022/06/16 17:00
会見で厳しい質問が飛び交い、声を荒げるシーンもあったミケルソン。米メディアとの緊迫したやりとりが続いた
リブ・ゴルフに出場した17名をPGAツアーが資格停止に処した一方で、全米オープンを主催するUSGA(全米ゴルフ協会)は彼らの出場を認め、そのうち15名がザ・カントリークラブにやってきた。
USGAは「今年1月に発表した全米オープン出場資格を、選手たちが満たした後に、変更するのはフェアではない」として、彼らの出場を許可した。だが、米メディアからは「それがUSGAと全米オープンの地位や存在意義をおとしめた」という声も上がっている。
米国には、9・11同時多発テロ事件や米ワシントンポストのジャーナリスト殺害事件へのサウジアラビアの関与を疑い、激しく批判している人々がいる。その批判は、サウジアラビアの政府系ファンドが支援しているリブ・ゴルフへの批判につながっている。
リブ・ゴルフの初戦が6月9日にロンドンで開幕した直後、9・11テロ事件の遺族は、ミケルソンらアメリカ人選手の代理人に当てた公開書簡で「リブ・ゴルフへの参加を考え直してほしい」と訴えかけた。
サービス精神あふれるナイスガイ
全米オープン開幕前の会見でも、9・11遺族への想いを尋ねる質問がミケルソンに投げかけられた。しかし、ミケルソンは「(書簡は)全部読んだ。だから何だ?」と恐ろしい形相で怒声を上げ、質問を遮った。
「私たちメディアにではなく遺族に対して、リブ・ゴルフに出るという決断をアナタはどう説明するのですか?」とさらに尋ねられると、ミケルソンは「深くお察しします」と答えるのが精一杯だった。
サウジアラビアのオイルマネーが原資のリブ・ゴルフは「スポーツウォッシングだ」という指摘も世間には多々ある。そこに参加することで、ファンが離れていくことを、どう受け止めるのか。そう問われたミケルソンは「一度にあれこれ尋ねるんじゃないよ」と、やはり怒声を上げ、「それぞれの判断だから尊重するさ」と、捨て鉢に答えた。
その姿は、この四半世紀以上に亘り、世界中のゴルフファンを魅了してきたミケルソンとは、もはや別人だった。
ビッグマネーを受け取ってPGAツアーからリブ・ゴルフへ移ったことも、それでもなおPGAツアーのメンバーシップと生涯シードの保持や行使を主張し続けていることも、彼の権利の行使なのだと考えることはできる。
しかし、自身の権利をどう行使するのか、そこにその人間の本当の価値が問われる。
ミケルソンは自身の権利を強引に行使しようとした結果、よりによって優勝を悲願に掲げ続けてきた全米オープンの会場で、由緒あるアメリカのナショナル・オープンの会場で、見るに耐えず、聞くに堪えない悲しい姿を晒してしまった。
その姿は、彼がキャリアをかけて築き上げてきたサービス精神溢れるナイスガイのミケルソン像を自ら打ち消すほどの醜態だった。
その結末こそが、ミケルソンの生涯に残る汚点になった。