「オリンピックに出られなかったのは確かにショックでした。でも落ち込んだのは数日。もともとがプロ志望で、プロでやりたいという楽しみもありました。だからアマの試合が終わったあと、何か吹っ切れたような気持ちもあったんです」

　井上は高校を卒業した年の7月に記者会見を開き、プロデビューを発表。トレーナーである真吾の大橋ジム入りも決まり、家族でプロの頂点を目指す新たな戦いが始まった。

井上父子の愚直な信念「強い相手とやらせてください」

　真吾は大橋ジムと契約するにあたり、会長の大橋秀行に「強い相手とやらせてください」と、強敵とのマッチメイクを要望した。

「だって強くなるためには強い選手とやるしかないじゃないですか。弱い相手とやってもレベルは上がらない。そうしないと引き出しを増やしたり、限界を広げたりすることはできませんから。全力であきらめずに戦って負けたら、それは仕方がないでしょう。海外でもそうですけど、みんな負けてそこから上がっていきますよ。（井岡一翔と激闘を演じて敗れた）八重樫くんもそうですよね。結果がついてくれば一番いいですけど、漫画の世界じゃないですから。めいっぱい自分の持っているもので戦えばいいと思うんです」

　強い相手との戦いを熱望するのは当たり前の話のようで、決してそうとは言えないのが現実だ。ベルトの保持や無敗記録に執着し、勝てそうな相手とばかり試合をするボクサーも目につく中、彼らの純粋さは称賛に値するのではないだろうか。

　井上本人もまた、強い選手との対戦をひたすら心待ちにしている。

「フライ級にはすごく興味があるんです。WBAとWBOのチャンピオン、フアン・エストラーダは世界的にも有名ですし、IBFにはアムナット（5月に井岡に勝利）もいます。WBCは八重樫さんで、強豪だらけなんですよ。ゾウ・シミン（五輪2大会連続金メダリスト）もいますしね」

　控え目に話していた井上がフライ級に話が及ぶと目を輝かせた。9月5日の初防衛戦をクリアすれば、階級アップは既定路線だ。待っているのはわくわくするような強豪が待ちうけるフライ級戦線。井上父子は負けを恐れない。ただ愚直に強者を追い求める。＜前編から続く＞

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「小学生のころはお父さんも選手で一緒に練習」井上尚弥の才能はどんな環境で磨かれたのか？「飢えたような目」をした父と歩んだ少年時代