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「オルフェーヴルはなぜ負けたんだ」何十回も見直したあの凱旋門賞…カンテレ岡安アナが初めて語る“アナウンサー人生で一番印象深いレース”
text by
齋藤裕(Number編集部)Yu Saito
photograph byTakuya Sugiyama/AFLO
posted2022/05/23 11:01
関西テレビ岡安譲アナ。「(2012年の凱旋門賞は)アナウンサー人生の中で最も印象に残るレース」と明かした
岡安 準備はしたんですけど、当日は用意した言葉を記したメモも実況ブースの机には置きませんでした。僕はオルフェーヴルから教えられたんです。「予定したものを出したらダメだ。その場で思いついたことを言いなさい」と。11年に三冠を決めた菊花賞でも、レース後に池添(謙一)騎手を振り落としました。それで僕の用意した勝利後のフレーズというのも吹っ飛びました。12年3月の阪神大賞典だってそう。彼は3コーナーで逸走してめちゃくちゃのレースをするわけです。「俺がうまく演出するから、お前はただ言葉にしていけばいい」。オルフェーヴルのレース実況をする時はいつも、そう言ってくれているような気がしていました。僕とオルフェーヴルが組めば、絶対何かが起こる。そう信じていましたね。
――実際「何か」は起こるわけですね。しかし道中は割とスムーズだった印象です。
岡安 道中で逸走したり、(クリストフ・)スミヨン騎手を振り落とすことがあれば、「パリでもやったか、オルフェーヴル!」と言おうとシミュレーションまでしていました。でも、スミヨン騎手がうまくなだめながら、フォルスストレートにやってきた。ただここで勘違いして飛び出すんじゃないかと僕は警戒していたので、「偽りの直線です。オルフェーヴルは我慢している。スミヨンは我慢させている」と実況しながら、うまくこらえているぞと感じていました。
――最後の直線を迎えた時はどういう心境でしたか?
岡安 後方に控えてやってきた最後の直線では杉本清さんの97年天皇賞・春で「大外から何か一頭突っ込んでくる!」とマヤノトップガンの強襲を予告したような実況をするつもりでした。しかし、オルフェーヴルがあまりに鋭い差し脚だったので、そんな余裕がなかった(笑)。なので、「外から栗毛の馬体が来たぞ~! 日本のオルフェーヴルだ~!」と気づけば、一気に畳み掛けていました。実況しながら、勝ったと思ったのですが……突如失速し、ソレミアに追い抜かれての2着。一番想像していたのは1番人気キャメロットとの追い比べ。首の上げ下げでゴールインというものだったのですが、予想の斜め上をいく結果でしたね。ただ、一旦は世界の頂点に立ちました。世界のトップとの距離は近いし、オルフェかその仔かわからないけど、この地で勝つんじゃないかと僕は思いました。だから、レース後の宮根さんとのやりとりで「夢が先延ばしになっただけ」という言葉が口を突いて出ていました。
「なんで負けたんだ」何十回とレース映像を見直した
――帰国まではどのような心境でしたか?