「投手指導で一番大事なのは、『邪魔をしないこと』だと考えています。これだけ情報量のある時代で、選手には探究心も向上心もある。彼らが3年間を終えた時に『何も教わっていない』と振り返ってくれるのが理想です」

　斎藤を含め、主力投手のほとんどが左投手である。秀光中時代から好投手として知られ、2年春には甲子園マウンドも経験している古川翼（最速145キロ）。佐々木朗希（ロッテ）を世に送り出した大船渡一中出身で2年生の逸材・仁田陽翔（最速145キロ）。同じく2年生ながらマウンド上で不思議な落ち着きがある田中優飛（最速143キロ）と、全員サウスポー。

　右投手にも急成長中の鈴木晶太（最速143キロ）に、遊撃手としても来年のドラフト候補に挙がりそうな2年生の山田脩也（最速144キロ）と、制球力抜群の2年生の高橋煌稀（最速143キロ）らが控える。高校野球チームとは思えない陣容だ。

遊撃手の好素材・山田脩也。投手としても最速144キロをマークする　©Takahiro Kikuchi

「本当なら、『一人一殺』で27人のピッチャーを使いたい」

　須江監督には、ある確信がある。

「大阪桐蔭に勝つには、左投手のインコースしかない」

　センバツの準々決勝以降の3試合で48得点の猛攻は圧巻だったが、大阪桐蔭が唯一苦戦したのは初戦の鳴門戦だった。好左腕の冨田遼弥にインコースを執拗に攻められ、3対1の接戦に持ち込まれた。須江監督は「ひとつの答えですよね」と語った。

　ただし、大阪桐蔭も夏にかけてさらにレベルアップしてくるだろう。1人の投手で抑え込めるほど、甘くはない。そこで浮上してくる戦術が「マシンガン継投」だ。

　須江監督は球数制限が導入される前から継投策を積極的に取り入れ、成長途上の投手に過度な負担をかけることなく育成してきた。大阪桐蔭に対しては、さらに短いスパンで継投する戦略を立てている。

「まずは1人の投手につき、3つのアウトを取ることが第一段階。それができたら9人、打者一巡を抑えること。今のところ、それ以上のイメージは湧いていません」

　そして、須江監督は真剣な表情でこう続けた。

「本当なら、『一人一殺』で27人のピッチャーを使いたいくらいです。でも、残念ながらベンチ入りメンバーに限りがあるので」

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