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《特別グラビア》スターダム林下詩美が語る“女王ではない今”の自由さ…話題の“中野ぅたみ”も登場「かわぃぃことしかとりぇがなぃんですぅ」
posted2022/05/14 17:01
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Takuya Sugiyama
日本マット界で、いま最も“イケメン”なのはスターダムの林下詩美かもしれない。
いや女子選手に“イケメン”という表現は適切ではないかもしれないが、何しろ林下本人も言っていることなのでご容赦願いたい。とにかく“カッコいい”ということに対しての意識が高いのだ。
女子プロレスの魅力としてよく言われるのは「選手がみんなキラキラしている」ということ。しかし林下に言わせれば「プロレスラーは憧れの存在であって、キラキラしているのは当然のこと」だ。その上で「しっかりプロレスを、試合を見てもらいたい」。キラキラしていて、実力があって、なおかつ林下はカッコよさを志向した。ファンの頃から見てきたレスラーたちが強くて凄くてカッコよかったからだ。男子選手だけでなく、スターダムの先輩である紫雷イオ(現WWE/NXT)もそうだった。
「正直、初めてプロレスが嫌になった」
一昨年11月、団体最高峰のタイトル、“赤いベルト”ことワールド・オブ・スターダムを獲得。デビューから2年あまりでの快挙だった。しかもベルトを奪った相手が“アイコン”つまり団体の顔として知られる岩谷麻優だ。プレッシャーはとてつもなかった。
「それまでもトップ選手だという自覚はありましたが、赤いベルトを巻いてより強まりました。あの岩谷麻優からベルトを引き継いで、団体を引っ張らなきゃいけないので。プロレスラーとしての格が上がったと思いますし、それは常に“赤いベルトのチャンピオン”としてどう振る舞うかを考えていたからだなと。何回か防衛するまで、プレッシャーに負けてる部分もあったかもしれないです。正直、初めてプロレスが嫌になった時期もありましたね」
チャンピオンとして屈辱も味わった。昨年3月の日本武道館大会、4月の横浜武道館大会で、自分のタイトルマッチの後に別の試合が組まれたのだ。赤いベルトを“最高峰”として扱ってもらえなかった。特に4月、タッグ王座戦の“下”にきた時の悔しさは大きかった。
「もう逃げてしまいたい、すべて放り出したいみたいな気持ちになりました。それで結局、思ったのは私は私らしくやるしかない、自分がやりたいプロレスをやろうと」
複雑な技は使わない“地の強さ”
チャンピオンらしさよりも自分らしさ。ただ“林下詩美のプロレス”は堂々としていて力強く、チャンピオンにふさわしいものでもあった。
「自分は飛べるわけじゃないし動きも速くない。たくさん関節技を持ってるとかでもないですし。じゃあ何が武器かといったらパワー、スタミナ、気持ちですよね。そういうシンプルなもので勝負していました」
一発で形勢をひっくり返すラリアット。不意を突くドロップキック。ミサイルキックには“重爆”という言葉を使いたくなる。フィニッシュに使われるのはジャーマン・スープレックスやハイジャック・ボムといった投げ技。どれも複雑なものではないが、だからこそ“地の強さ”のようなものが際立つ。